第28話 新年おめでとう。
凱旋式を春の終わりにつつがなくすませた。
街道はとても賑わっていて、パレードの周辺の窓からは人々が花びらを降らせ、華やかで美しかった。
そして勝利のお祝いに、美味しい料理やお酒を振る舞われた帝国市民は喜んでいた。
何しろ戦争したのに味方の被害がゼロの完勝なのだ。
我が公爵家の権力が増すにつれ、パーティーのお誘いは増えた。
招待状は沢山来ていたが、しばらくは自分の土地となったアギレイの鉱山とレース事業、畑の整備に忙しい日々を過ごした。
初夏に娘と船遊びをした。
夏の陽射しから娘を守る為、ラヴィによく似合う美しいレースの日傘を作った。
アラクネーの糸は優秀だった。
──船遊びと言っても、船に乗って湖を移動するだけであったが、ラヴィは嬉しそうだった。
私と一緒にお出かけできるだけで嬉しいようだ。
かわいい。尊い。
ちなみにうちのレースの日傘の評判が高く、買わせて欲しいとの貴婦人達の要望が多く、稼げた。
使ってるモデル、いや、娘がかわいいからね、欲しくなるよね。
分かるよ。
秋には家族一緒にカエデの紅葉を見た。
赤く染まった木々は、本当に見応えがあった。
紅葉の名所ではメープルシロップをお土産に買って、邸宅ではパンケーキにメープルシロップをかけて食べた。
甘くて美味しい。
冬を迎えて、冬支度の大変な富裕層ではなく、生活に困窮している領民に、リメイクドレスや宝石を売ったお金で火の魔石を配った。
冬に凍えて辛くならないよう、寒さで死ななくて済むように、暖かく過ごせるように。
私財を売って領民に還元したのだ。
その分、私の名声値が上がった。
これも娘がいずれ社交界デビューする時に肩身が狭くないようにする為の布石。
計画通りだ。
今は新年を迎える前の準備をしていた。
旦那様も私が好き勝手してても、昔のような無茶苦茶な贅沢品の買い物もしてないからか、何も文句は言ってこないし、口出しもなかった。
そんな訳で、新年のお祝い料理に、「ガレット・デ・ロワ」を準備する事にした。
それは前世で見て憧れていたやつ。
日本人だからフランスなどの外国のイベント料理に憧れる。
1月のキリスト教の祭日に食べられる“王様のためのお菓子”という意味を持つアーモンドクリーム入りのパイの中に小さな陶器製の人形フェーヴを仕込むやつ。
切り分けた時にフェーヴが当たった人は、その一年間幸福に恵まれると伝えられている。
この料理を料理長に頼んで作って貰う。
小さな陶器のお人形は雑貨屋さんで購入した。
そして新年を迎えた。
公爵領もお祝いムードで公爵邸でも当然パーティーが開かれた。
招待客で賑わっている。
貴族の女性のドレスは華やかだし、イケメン騎士もいっぱいいる。眼福。
「新年おめでとう、今日は無礼講だ。楽しんでくれ」
旦那様のシンプルな言葉でパーティーは始まった。
しばらく挨拶のターンが続いた。
そしてついに、華やかな飾りつけのパーティー会場で、念願のガレット・デ・ロワを食べる時が来た。
ガレットは旦那様に頼んで切り分けて貰った。
「お料理の中に何か入ってました!」
小さな陶器製のお人形を見て、ラヴィが驚いている。
「フェーヴね、当たりよ、それ。
ガレット・デ・ロワの中に入ってるのに当たると、その一年間幸福に恵まれるというものなの」
「わあ! お母様、本当ですか!?」
「多分……いい子にしてたら」
絶対とも言い切れないのは、皇帝が何を言い出すか分からないからだ。
「い、いい子にしています。多分」
「頑張って……」
「きっと大丈夫ですよ、お嬢様はそもそもいい子ですから!」
使用人もフォローをしてくれて、何とかなった。
新年のお祝い料理は美味しいものばかりだった。
私のリクエストのグラタンもある。
冬になると食べたくなるのがグラタンである。
これも料理長にレシピを渡して作ってもらう事にしたのよ。
マカロニとかパン粉とかホワイトソース用の牛乳とかチーズなどを用意して。
大きなオーブンは厨房にあるから。
完成したグラタンはチーズにこんがりとした良い焼き色がついてて、いかにも美味しそうに仕上がっていた。
お味も当然良かった。大満足。
沢山のドライフルーツの入ったケーキも冬籠もり用に用意した。
砂糖もバターもお酒もふんだんに使っても何ともない!!
流石公爵家!!
セレブ生活最高!!
その一年幕開けは、いい感じだった。
のだが、忘れていた事があった。
ラヴィの呟きを聞いて思い出した。
「そう言えば、妖精さんもまだ妖精界に里帰り中でしょうか?
いつ帰るのかなぁ。やっぱりお花の季節の春でしょうか?」
あ……
……出征の時に私が公爵邸を留守にするから妖精はしばらく妖精界に行って留守にするって使用人への手紙を出して……それが娘にも伝わって……そのままにしてたわ。
「そうね、きっと春だわ。妖精は花が咲く頃に戻ると思うわ」
「冬は寒いですからね」
「妖精界は常春だから寒い間はきっと向こうにいるわね」
という風に、誤魔化しておいた。
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