第27話 どこに探しに行こうかな?
さて、またラヴィの家庭教師を首にしたので、新しい人を探さないと。
ディアーナは魔力無しと思われていたせいでアカデミーに通えなかったから、知り合いもいないし、足で。
人探しなら酒場が定番だけど、腕っぷしの強い冒険者の仲間探しとは違う。賢い人が行くのは……
「何故素直に職業斡旋所で家庭教師募集をしないのですか?」
馬車に同乗、同行しているメイドのメアリーは不思議そうに訊いて来た。
「本当に教えるのが普通の勉強だけなら平民でも良いけど、そうじゃなくて貴族の所作とかも教えてくれて、いずれラヴィの人脈として有効になる貴族の方が良いと思うのよ。
旦那様の候補だって最初は子爵夫人だったし」
私は最近貴族の間で流行っている水タバコの吸える店に足を運んだ。
情報元は流行に敏感なドレスショップの店員だ。
ラヴィのドレスを新調する時に聞いた。
原作でもこんな店があるのは知っていた。
セレブな雰囲気だし、男性貴族だけでなく、意外にも貴婦人も来ている。
私はメアリーを近所の食堂あたりで待機させ、騎士二人だけを伴って水タバコの店に入店した。
店内に入るなり、ふわりとフルーティーな香りとスパイスのような香りがした。
「ようこそ、シーシャハウスへ」
「いらっしゃいませ」
高級な雰囲気の店内から、二人の店員が声をかけて来た。
軽く店内を見渡す私に、店員は空いているお好きな席へどうぞと言った。
さて、どの人に、どうやって声をかけたものかしら?
そこかしこで水パイプをくゆらせる姿が見える。
「お好きなフレーバーをお選びください」
水タバコはどのフレーバーにするか悩んでいたら、親切な女性が声をかけてくれた。
長い黒髪の美しい人だった。
「公爵夫人、このお店は初めてですか?」
「ええ」
水タバコとは、水パイプという喫煙具を使用する喫煙方法だ。
火皿で燃えたたばこの煙を水にくぐらせ、ろ過された煙を喫煙する。
煙が水を通ることで冷やされ、やわらかい味わいになる。
「タバコを一切使用せず、ドライフルーツやサトウキビをベースに作られた、ノンニコチン、ノンタールのフレーバーもありますよ」
健康に害の無さそうな物を教えてくれた。
良い人では?
「失礼ですが、貴女、貴族の方ですわよね?」
先程はこの方、私を公爵夫人と言った。
ディアーナを知っているならやはり貴族だと思うし、
華のある優雅な雰囲気のこの人はパーティーで見たような気がする。
「ええ、このお店、最近話題になっていて、来てみたらハマってしまって。
私はレジーナ・ケイティ・オルコットですわ」
「オルコット子爵夫人?」
「はい」
「変な事を聞いても良いですか?」
「変とは?」
「勉強、お好きですか?」
「ものによっては嫌いではありません」
「……実は、人に、子供に勉強を教えるのに適した人を探しているのですが、心あたりありはませんか?」
「お嬢様の家庭教師を探していらっしゃるのですか?」
「そうです」
「そうですね、二、三人、紹介しても構いませんし、なんなら私が教えても」
「本当ですか? もしよろしければ、うちで家庭教師を」
私は食い気味に言った。
「私が紹介する者に会って見てから決めなくても良いのですか?」
「私にニコチンなしのものもあると勧めてくださったので、貴女は良い人だと思いました」
「あら……まあ、ふふふ」
この子爵夫人はたおやかに柔らかく微笑んだ。
「私はニコチンなしでフルーティな香りの物を」
私は近くにいた店員に声をかけた。
甘い香りを楽しみながら、レジーナとはゆったりとお話をさせて貰った。
* *
「レジーナの優雅で柔らかい雰囲気が気に入ったわ」
店から出て、護衛騎士にそう語る私。
「オルコット子爵夫人は何やら色っぽい人ですが、大丈夫ですか?」
騎士はレディが水タバコを楽しむセクシーな雰囲気にのまれたのかもしれない。
やや心配そうだ。
「レジーナは夫君との仲も悪くないようだし、いくらアレクが美形でも、わざわざ人の旦那を誘惑なんかしないでしょう」
「それならいいのですが」
「最初の子爵夫人は未亡人だったのよ、今度の子爵夫人はちゃんと夫も子供もおられるの。だからきっと平気よ」
ほぼ直感で選んだ。
私は自分の女の勘を信じるぞ。
* *
「と、言う訳で、オルコット子爵夫人を新しいガヴァネスとしてここに招く事にしました」
夫のいる執務室でそんな報告をした。
「そうか、ご苦労だったな。
こちらからは凱旋式の衣装の仮縫いが出来たから合わせてみて欲しいとデザイナーから連絡があったぞ」
「分かりました。明後日にも来てくれていいとお伝えください」
「ああ」
さて、ドレスをシンプルな服に着替えてから、メイドのメアリーを伴って、うさちゃんを愛でに行くか。
「あら〜〜、撫でられ待ちなの? うさちゃん、かわいいわねえ」
つい、近所のおばちゃんみたいな口調になってしまう。
うさぎが可愛いすぎるせいだ、仕方ない。
ふわふわのもふもふを撫でてスーパー癒しタイムを満喫する私。
表の庭園に出てみると、ラヴィが庭師を困らせているのを発見した。
トムは手に瓶を持っていた。
「トム酷い! 妖精さんのために農薬は使わないでって言ったのに!
この瓶に入ってる緑色の水、農薬なんでしょ!?」
「しかしお嬢様、これは旦那様の指示でして……このままではお花の葉っぱが虫食いだらけになってしまいますし」
「でも……」
「ラヴィ、庭師を困らせてはいけないわ。
私が自然由来の、その、虫は嫌がるけど、自然に優しい虫除け薬を作るから、それを使えば妖精さんも不愉快ではないし、大丈夫よ」
「本当ですか?」
「そうよ、それに妖精さんは魔法が使えるから、自分に対して毒っぽいものも消せるの」
口からでまかせ。
「そうなんですか? ……なら、いいです。トム、困らせてごめんね」
「は、はい、私は大丈夫です。奥様ありがとうございます」
「メアリー、無農薬の農薬を作るから、厨房から出涸らしのコーヒーと茶葉を貰って来て、それと、煮沸消毒をした密封可能なガラス瓶を用意しておいて」
「はい、奥様」
昔家庭菜園用に調べて作った無農薬の農薬をまた作ろう。
材料は唐辛子10本、ニンニク三個、生姜三個、ニラ、出涸らしの茶葉、出涸らしのコーヒー、よもぎ、酢、焼酎(かぐや姫から貰った)
他はえっと……牛乳を500CCくらい。
* *
すり鉢にニンニクを入れ、すり潰す。
すり鉢ですり潰す時は……右手を軸にし左手で回していく。
刻んだニラとおろし生姜を入れ、刻んだよもぎを加えてすり潰す。
輪切りにした唐辛子を加える。
出涸らしのコーヒーとお茶っ葉を入れる。酢と焼酎を入れる。
お湯、牛乳を加えて30分煮詰め、ザルに布巾を敷き、濾す作業をする。
*
しばらくして完成した薬液をスプレー容器に入れて、虫のついた葉っぱに噴霧してみると、虫がポロポロと落ちて行く。
「やったわ、無農薬農薬、上出来よ」
「おお、すごいですね、奥様」
「じゃあこの無農薬農薬はトムにあげるから、無くなったらこのレシピ通りに作って使ってちょうだい」
「はい、ありがとうございます」
レシピを書いた紙もあげておく。
* *
数日後、ミキサーとひき肉製造機の進捗報告も届いたし、ドレスの仮縫いも行ったし、ラヴィの新しいガヴァネスのオルコット夫人も授業を開始してくれた。
特に問題は起こっていない。
じきに凱旋式だし、念の為スキンケアも念入りに行っておこう。
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