第17話 のどかな農村と物騒な旦那様
娘と野遊びに行く予定で、何故か頼んだ護衛の中に、旦那様がいる件について。
「何故旦那様が護衛に混じっているのですか?」
「私が一番強いからだ」
「わあ! オレが一番強い! 死ぬまでに一回は言ってみたいセリフですわ!」
「女性がそれを言うのはおかしいだろう」
「まあ、お父様がわざわざお時間作ってくださったんでしょう、良かったわね、ラヴィ」
「は、はい」
びびってる……。
同じ馬車の中に私とラヴィと、旦那様。
ラヴィが私の隣。
私の正面に旦那様が一人で座っている。
「旦那様、私の正面ではなく、ラヴィの正面に座っていただけませんか?」
「何故だ?」
「急に馬車が止まってラヴィが座席からふっ飛ばされたら、正面のあなたが受け止めて護れるようにです」
「そうか、わかった」
旦那様が素直に移動した。
私は馬車内から御者に命じる。
「貴族街を抜けて、のどかな農村地区まで馬車を出してちょうだい!」
「かしこまりました、奥様」
「神殿へ向かえ、転移陣を経由し、移動時間を短縮する」
「はい、旦那様」
時短だわ!
のんびりと馬車ドライブとはいかないようだけど、正直前世の地球の高級な車よりシートが良くないと言うか、お尻にダメージが来るからそこは助かるかも。
通常、移動魔法の転移陣では魔力をかなり使うから、神殿に高額な寄付がいるのだけど、流石は金持ち公爵家。
そしてやはり時間を大事にすると言うなら、忙しい中、ラヴィの護衛の為に無理矢理時間を作って来てくれたのかも。
私が何かしでかさないか、見張りに来た可能性もあるけど、良い方に考えた方がいいわよね。
私の精神安定の為にも。
* *
富裕層の街から、神殿を経由して、農村の地域までやって来た。
野山も美しい。
新緑がキラキラとして、命の息吹を感じるようだわ。
「農村地帯に着いたようだぞ、それで、どうするんだ?」
「川辺でも散歩しましょう。水が陽光を反射して、キラキラして綺麗ですよ」
「そうか」
「旦那様、馬車から降りる時はラヴィに手を貸してくださいね」
「分かってる」
「お父様、ありがとうございます」
私達は馬車から降りて、川辺を散策。
しばらくのんびりと川辺を散策していると、農夫らしき男が手のひらより大きめの石など集めていた。
それを見たラヴィは疑問に思ったらしい。
知らない人に突然話しかけられないラヴィは、私に質問して来た。
「お母様、あの人は何故川の石を拾っているのでしょう?」
「近くにネコ車、作業用台車も有るし、家で料理の……カマド作りにでも使うのではないの?
隙間や周りを粘土で固めて使うの」
「よくお分かりですね! その通りですよ! お嬢様方!
妻のためのパン焼きカマドを庭に作ります!」
私達の会話が聞こえたらしい農夫らしき男の人が答えてくれた。
「ほら、やっぱり」
「お母様は物知りで賢いですね」
「お母様!? てっきりオラは歳の離れた姉妹かと〜〜。
たまげた〜〜」
「ふふ、姉妹に見えたですって」
「お母様は若くてお綺麗なので……」
私は気分よく、その場を後にした。
流石ディアーナ、ラスボスは見た目も大事だものね。
まあ、この世界線では中身が私なので、ラスボスは回避させていただくつもりだけど!!
川に魚影を探したらハヤみたいな小さな魚が一瞬見えたりした。
人間が近づくと遠ざかる。
残念。
キラキラした川の流れを堪能しつつ、ラヴィとたわいもない事を雑談をしていたら、ややして川辺で農村の少年が上流の方から歩いて来た。
日に焼けた黒髪の少年だった。
10歳くらいかな?
見れば手にパパイヤの上半分のような物と、水袋のような物を持っている。
「坊や、何か取れたの? お魚とか」
「エビです」
少年は突然美しい私から話かけられて、びっくりしていたけど、素直に教えてくれた。
水袋の中身を見せてくれた。
「まあ、小さくてかわいい川エビがたくさん! どうやって取ったの?
網も持ってないようだけど」
「この野菜の中身をくり抜いた物が家にあったから、これで掬いました」
「え、すごい、そんな物で捕れるの?」
ラヴィもびっくりしてる。
「そこで捕って見せましょうか?」
少年が川を指差してそう言う。
「いいの?」
「はい」
少年は川の縁の草が生えているあたりを、くり抜いた野菜で、ガサガサとやった。
野菜の器にはしっかりと川エビが五匹くらい入っていた。
凄い! 感動した!!
「まあ! 本当にそんな道具で捕れるのね! この辺では皆そうするの?」
「分かりません、俺はいつもこうしてるだけで」
「え、自分で考えたの? 創意工夫して偉いわね!!
良いもの見せて貰ったし、面白かったから、これをあげましょう」
テンションがぶち上がった私はポケットから金貨と銀貨を一枚ずつ少年にあげた。
「え!? 金貨と銀貨!?」
「こんなの持ってるの見たら親御さんが驚くだろうけど、公爵家の夫人がくれたって正直に言うといいわ」
「え!? 公爵夫人!?」
「しー。声が大きいわ」
「も、申し訳ありません」
わりと敬語も使える賢い子だなと思った。
「農村だし、農夫の子かもしれないけど、いずれあなたに独り立ちの時が来て、農夫以外の道が欲しければ、公爵家の執事として雇ってあげるわ。
最初は見習いからだけど」
「え!? 公爵家の執事!?」
「賢い子は好きなのよ」
私はポシェットから木で出来た木簡のような物を手渡した。
それには公爵家の紋章が入っていて、商人などに渡して通行証代わりにする物だ。
これが有れば平民でも公爵家に訪ねて行ける通行証。
旦那様は何も言わずに成り行きを見守っている。
特に文句は出ない。
なので、なおも私は言葉を続けた。
「通行証よ。これを渡せば公爵家に来れるし、両親に金貨と銀貨の事を聞かれても、盗んだ物と勘違いされずに説明出来るでしょう」
「あ、ありがとうございます、奥様」
「じゃあ、ご機嫌よう」
我々は馬車に戻った。
「面白い物が見れたわ、ランチの為に街へ戻りましょう」
「奥様、あんな素性の分からない者を執事にしていいのですか?」
同行していた護衛騎士が心配して声をかけて来た。
「どう見ても農村に住む普通の少年じゃないの。警戒するような存在かしら?
それにラヴィ付きではなく、本当に来たら私の執事にするから、問題はないわ」
「左様でございますか」
「そうよ。旦那様も木簡渡す時に何もおっしゃらないし」
ここで静かにしていた旦那様がようやく喋った。
「何かあれば速やかに排除するまでだ」
旦那様、怖〜〜。
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