第18話 アレクシスの過去と時期がずれた事件。
〜アレクシス視点〜
今日は妻の思いつきで野山の散策に付き合い、護衛をした。
正直仕事は多いし、忙しかったのだが、最近、若い娘の誘拐、行方不明事件があらゆる領地で発生しているという報告も受けていた為だ。
放っておくことも出来ないし、娘がえらく楽しみにしているようで外出禁止とも言えなかった。
散策も無事に終わり、邸宅に帰り着くなり、私は執務室へ向かった。
すると、何故か、ラヴィアーナまでついて来た。
部屋付きのメイドまで共にして。
「どうした? 何か用でもあるのか?」
「お父様……お母様に謝罪は、いつしてくださるのですか?」
「謝罪?」
「お母様を疑ったではないですか、私の足を打ったと。私がふらついて椅子にぶつけただけなのに」
ラヴィアーナは涙目だ。
ぷるぷると震え、怒りの波動すら感じる。
これは本気で怒っているな。
「だ、旦那様、お嬢様は悲しみのあまり、原因となった椅子を燃やそうとまでされたのです、物に罪は無いのでお止め下さいとお止め致しましたが」
メイドまでが娘の悲しみがいかほどか、伝えようとして来た。
「……はあ、分かった。謝罪しよう」
「本当ですね?」
「ああ」
私は過去に親に殴られて育った。厳しい親だった。
望む成果をあげられないと、服の下で通常は見えない所を打たれた。
一応外聞は気にしていたようなのだ。
だから、よく有る事だと思っていた。
親が躾だと、教育だと言って子を打つ事も。
だが、それは、そんなやり方は間違いだと、入浴の手伝いをする、あるメイドがこっそりと、涙ながらに教えてくれた。
ただ、立場上、公爵家で最高権力者の父に逆らえる者は公爵家にはいなかった。
ただでさえ、昔のディアーナは機嫌が悪いと使用人に当たり散らし、物を投げるような女だったから、おそらくそうだと疑ったのだ。
だが、私に対して、震え、怯えつつも、怒りすら滲ませ、訴えるのなら、本当なのだろう。
私は、妻の部屋を訪ねた。
妻はスケッチブックを開いて、絵を描いていた。
エビ獲りの村の少年の肖像画のようだった。
「旦那様、どうなさいました?」
「ラヴィアーナに言われて……いや、この間の謝罪をしに来た」
「え? この間?」
「ラヴィアーナを殴ったと、疑ってすまなかった」
「ああ! あの時の。いいですよ、分かっていただけたなら。
私の過去の行いが悪すぎてやりそうな事だと思われたんでしょう」
その通りだった。
「何故、あの少年の絵を描いているんだ?」
「私とした事が、あのエビ捕り少年に木簡まで渡しておいて、名前を聞き忘れていたので、もし、あの少年が本当に執事見習い希望で公爵邸に訪ねて来たら、疑われて追い返され無いように、門番に似顔絵でも見せておこうと思って」
「その為の証明木簡では無いのか?」
「門番が証明木簡を拾ったか盗んだと勘違いして責めたら、可哀想ですし」
「そうか……」
ディアーナは本当に別人のように他者を思いやるような人間になっている。
「ええと、お話は終わりですか?」
「もう二つだけ、各地で若い女の誘拐、行方不明事件が頻発しているらしいから、外出時は絶対に護衛騎士を連れ、できれば事件解決まであまり出歩いて欲しくない」
「誘拐、行方不明事件! まあ、それであなたがお忙しい中、散策に付き合ってくれたりして下さいましたの。今日はありがとうございました」
しおらしく、私に素直に礼まで言うなんて、本当にらしくない。
「あと一つは、家令から報告を受けたが、募集していた針子が見つかったそうだ、明日には公爵邸に着くという話だ」
「まあ! 良かった! ありがとうございます!」
話は終わったので、私はディアーナの部屋から出て、執務室に戻った。
* *
〜ディアーナ視点〜
夫から謝罪を受けた。私は許し、謝罪を受け入れた。
原作を読んで、私は彼の過去を知っているから。
服で見えない場所を、親から、ムチなどで打たれた。
教育の為だと言っても、暴力はダメだ。虐待だ。
やられた過去があるから、トラウマになっていて、余計疑わしく思ったに違いないのだ。
それに、娘を心配して、お出かけについて来てくれた。
各地で起こっている若い女性の誘拐事件。
原作小説で読んだわ。
でも、それってラヴィが10歳になって、アカデミーに入ってから起こる事件で、ラヴィも誘拐に巻き込まれ、そこでヒーローに助けて貰う展開だったはず。
でも、原作で細かい記述がされていなかっただけで、昔から魔王復活用の生け贄の乙女探しはされていたのかも。
犯人が魔族と魔王信者なので、アジトも至る所にあり、特定しにくいのよね。
私、ラヴィの姉に見えたくらいだけど、囮になれるかしら?
生け贄に相応しい乙女に見えるかしら?
いや、魔王候補そのものが出てどうするという感じもするけど。
現在のディアーナの実年齢は二十代前半だけど、18歳くらいにも確かに見える。
若々しく美しい。
金髪に琥珀色の瞳。
イケるのでは?
ちょっと街に出ようかな!?
まず針子と一緒にドレスの改造が数着分でも終わった後にでも。
売りに行くという名目で外出出来るから。
敵を誘き出して倒しておけば、犠牲者も減るでしょうし。
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