第15話 ダンスなどして歩みよる。

 皇帝の輸入許可も出たし、かぐや姫より、良いお返事をいただけたので、上機嫌で夫の元へ戻った。



「で、本当に踊るのか?」



 夫に疑惑の眼差しで問われた。


「ラヴィがそのうち社交界デビューする事を考えたら、私が夫に一途になったと見せつける必要があるのです」

「……其方が一途? ……まあいい、分かった」



 ダンスタイムが始まり、夫は観念したようだ。


 ダンスはディアーナの体が覚えているようで、優雅に踊る事が出来た。

 またも珍しく夫と踊ってるので、周囲の人達に驚かれてしまうが、気にしないでおこう。


 ダンスが終わり、帰る前に予備のお酒と、自分達用に持って来ていたお醤油をハポングから分けていただき、輸入希望商品については追って詳しく文書と契約で交わす事に。


「お醤油も分けていただけた!! 嬉しい!!」



 箱にしがみつく私を呆れて見ている夫。



「それで、帰る前に市場に寄ると言ったか?」

「私はメアリーと平民のふりをして市場で蟹を仕入れて来ます。貴方はタウンハウスでゆっくりされていていいですよ」

「メイドだけでなく、護衛騎士もつけるように」


「せっかく平民のふりをするのに、騎士などつけたら台無しではないですか」

「騎士も町人のような服装にしろと命じればいい。もしくは冒険者の変装を」

「分かりました、では騎士は二人だけつけます」



 なんとか護衛を二人まで減らして、ついでに荷物持ちをさせる事にした。

 市場には人が多く、活気に溢れていた。


 ズラリと並ぶテントやゴザのような敷物を敷いただけのシンプルな路上販売も味がある。


 穀物を入れる袋の上に束ねた野菜などが並べてあるのもよく見かける。


 あるいは艶のある瑞々しい大きなバナナの葉っぱのような葉に商品が置かれてある。

 さつま揚げに似たものや、サーターアンダギーに見た目が似た物もあって、つい、買い食いをしてしまう。



「揚げた魚のすり身とドーナツっぽいお菓子……イケる」

「私などは全く平気ですが、奥様のような方がこんな所の食べ物を買って食べて大丈夫ですか?」



 メアリーは私が腹を壊さないか心配している。



「大丈夫、火は通してあるし、売り上げに貢献して経済を回すのも大事よ。

山の中から籠を担いでこの市場まではるばる売りに来てる人もいるかもしれないし」



 皇都とはいえ広いので、山手の方から来てる人もいる事でしょう。


 ややして海か川で獲って来たらしき蟹を紐で縦に縛って吊るし売りを見つけた。

 持ち運びしやすいのね。


 前世で外国のマーケットでも竹ヒゴのような物で縛って吊るしているのを見かけた事がある。


 とにかく蟹ゲット!! 甲羅酒が飲める!!



「はー、それにしても、かぐや様には何をしてこの感謝の気持ちを表せばいいのかしら」

「輸入取引きだけでもあちらにも利益が出るではありませんか?」



 護衛騎士が私にそう声をかけて来た。



「たったそれだけで? 私が吟遊詩人なら彼女を称える歌を作って歌うところよ」

「そ、そこまでですか、東の国の酒と調味料が」

「そうです」


「ところで奥様、陛下の前で前世の記憶があるとおっしゃっていましたが」

「ああ、ええ、東の国の調味料が欲しくて、つい」

「後日詳しく聞かれたらどうなさるのです?」

「温厚な農耕民族の末裔で、美しい自然や花などが好きで、美味しい物が好きなだけの大人しく、無害な平民だったのよ。聞かれて困るような事かしら」



 漫画やゲームや本好きオタクの要素はあえて省く。



「そうですか、前世で軍属だったりはしないのですね」

「人も獣も殴った事ない、無害な平和主義者なのよ、軍の事なんて基本的に知らないわ」



 前世じゃ軍人もカレーが好きで食ってたらしい事しかよく分からない。



「犬と猫なら撫でた事あるんだけど、今世では死ぬ前にうさぎを撫でる事ができるかしら」

「うさぎぐらいなら、今度の狩猟大会で見つけたら狩って来ますよ」

「狩らないで! 可愛がりたいのに殺したら意味がないでしょ?」


「そうですか、でもうさぎなら地元の公爵領の市場でも売っていますよ、生きているのも、食料用になっているのも」


「生きてるやつ……」

「ペットですね、分かりました」

 

 何? 買ってくれるの? もしかして……?

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