第13話 パーティー会場にて。

「アドライド公爵夫妻、ご入場です」


 パーティーの入り口で、誰が入場したか告げるシステムらしい。

 豪華なパーティー会場が騒めく。


 そもそもディアーナは社交界の花だった。

 たとえ、魔力がなく魔法の使えない落ちこぼれだと思われていた時代であっても。

 その圧倒的な美しさから。


 次々に貴族が入場する。

 なのに一番注目を集めているかもしれないってレベル。

 居心地が悪い。


 私はいつもならお気に入りの男性貴族とダンスフロアに行く所だけど、お酒やお食事のあるスペースに移動した。


 原作通りに男の誘惑などするつもりがない私。

 せっかくなので、この世界の食や飲み物でも堪能しよう。


 スパークリングワインらしき飲み物を手にして飲んでみた。

 ふむ。悪くない。

 口当たりがフルーティで美味しい。


「あら、アドライド公爵夫人ではありませんか、今日は男性の所ではなく、お酒に一直線だとは、どうなさったのかしら?」



 ──はあ!?



「ここで会った貴女もすぐにお酒に向かって歩いて来られたのでは?」

「うっ」


 なんだ、この女? いきなり突っかかって来たぞ。

 しかも墓穴を掘って。


「い、いいえ、あなたがこちらに向かって来られたので、私も来ただけで、断じてお酒などに釣られて来てなどいないのです」


 貴族女はそう言い訳をしたが、つまり、私に用なのか? 

 名乗ってくれないと、モブは流石に分からない。


「つまり、私に挨拶に来られたの? ごきげんよう、楽しいパーティーを」

「……え!?」


 私が声をかけてやっただけで、何をそんなに驚くのよ。


「デルガディ公爵夫人、何か様子がおかしいですわ」


 あ、取り巻きモブがモブ夫人に声をかけてくれたおかげで情報が手に入った。

 帝国四大公爵家のデルガディの夫人か、なんでこの人が私に?

 って公爵夫人の後ろにいる取り巻きの中に見覚えのある女がいるような。


 あ、婚約者が原作ディアーナに誘惑された気の毒な子爵令嬢か。

 コミカライズであの縦ロールの髪を見た。

 公爵夫人を盾に復讐に嫌がらせでもしに来たの?


 私が縦ロール子爵令嬢を凝視すると、彼女はビクリと肩を震わせた。

 私が怖いなら喧嘩を売るなよ。


「前回の伯爵のパーティーでは、こちらの令嬢の婚約者にはしたなくも色目を使われていたようじゃないですか」


 おっと、ダイレクトに責めて来たぞ。

 公爵夫人、なんでルドリ子爵令嬢の為にそんな事を?

 それか、私が気にいらないから潰したいだけか?


 叩く理由見つけたら、便乗してとことん人を叩きたいってやつ?

 もしやストレスが溜まっているのかな?

 そんな事では、私の代わりにラスボスの器にされてしまいかねないぞ?



「申し訳ありません、私、先日落馬をいたしまして、頭をしたたかに打ち付けて、色々記憶に欠損がございます。

過去の私が何か不愉快な事をしでかしたようで、謝罪いたしますわ」


 私はルドリ子爵令嬢に向かってそう言った。


 あまりにもあっさりと私が謝罪したので、呆気に取られる一同。

 気位の高いディアーナが自分から謝るとは思っていなかったらしい。

 

「な、なんですって、今、ルドリ子爵令嬢に謝罪された? ワタクシの聞き間違いかしら?」

「聞き間違いではございません。私、今は夫に一途な女ですので、お構いなく」



 もう他の男に色目は使いませんアピールをした。


「夫に一途!?」



 何がそんなにおかしいのよ、冷血でも最高レベルのイケメンなんだぞ。


 その時、会場が一際ざわめきたった。


「皇太子殿下、妃殿下のご入場です!」


 出たな、皇太子。

 原作ディアーナの恋焦がれた相手。彼女が悪役となった元凶たる者。

 この男と添うことが叶わず、ディアーナはやさぐれて、悪女になってしまったのだ。


 侯爵令嬢として産まれても、生まれながらに魔族の封印により、魔法が使えないポンコツでは、皇太子妃の座は手に入らなかった。

 諦めざるを得ない悲しみと怒りで、荒んでいったのだ。


 いいタイミングで大物が登場してくれたから、挨拶に行ってこの場から離脱しよう。



「帝国の高貴なる皇太子殿下、そして皇太子妃殿下に、アドライドがご挨拶申し上げます」


 私は笑顔で皇太子と妃殿下に挨拶をした。

 極めて感じ良くしたつもり。


「おお、アドライド公爵夫人、落馬したと聞きましたが、大丈夫でしたか?」


 皇太子が芝居がかった話し方をした。

 本心で心配してる風ではない。



「やや記憶の欠損がございましたが、命に別状はありません。

それでは、いいパーティーを。御前を失礼いたしますわ」


 色目を使う事もなく、挨拶だけして颯爽と去る私。

 周囲の者も驚いている。



 あ、旦那様、アレク発見!!

 もう旦那しか相手にしないアピールでもしておけば、他の女性陣も安心できるのでは?


 男性貴族達と何やら話をしているとこに私は近寄って行く。

 かつてのパーティーでは入場時のエスコートが終わると自分から夫に近づく事はなかったので、周りも驚く。



「あなた〜〜、じきにダンスタイムですので、踊ってくださいませ」

「!? 其方とか?」



 驚く旦那様。



「他に誰がいるのですか? ファーストダンスは相手がいるなら夫婦か婚約者とするものでしょう?」

「……本当に頭をかなり強く打ったようだな……」


 小声でそんな事を呟く夫の腕につかまる私。

 何とでも言えばいいわ!

 いずれ社交界デビューするラヴィの為に! 

 私のイメージアップに協力してもらう!


 それぞれが皇太子達に一通り挨拶をして、さらにその後で皇帝と皇后が登場した。


「「帝国のいと尊き皇帝陛下、皇后陛下、両陛下、御来臨!」」



 この国のトップが来たとの知らせがパーティー会場に響いたので、



「「帝国のいと尊き皇帝陛下、帝国のいと気高き花、皇后様にご挨拶申し上げます」」



 皇帝に皆が頭を下げて挨拶する。私も当然そうした。

 できるだけ、目立たないようにしたかった。

 でも、わざわざ皇帝が声をかけて来た。


 皇帝は白く立派な髭を蓄えた、威厳たっぷりな雰囲気だ。

 だが、こちとらラスボス候補。政略結婚を推してくる男なぞに気圧されてなるものか。

 原作情報によれば、アレクシスとディアーナの婚姻は皇帝命令だったんだ。


 震えるなよ、私。



「アドライド夫人に癒しの力が顕現したとか、誠にめでたい事であるな」

「ありがとう存じます」



 わざわざ魔力覚醒に言及したいのか〜〜。警戒しているのか? 帝国内のパワーバランス的に。

 でも今更隠してもしょうがないので、私は素直に礼を言っておいた。



「アドライドの勢力がますます増すであろうな?」

「この新たな力も帝国の支えとして、使わせていただきます」



 強くても別に反意とか無いでござるよアピールもしておく。

 私は平和に公爵夫人として悠々自適のスローライフがしたいだけなのだ。

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