第12話 映えるスポット
なんとか魔術師を追払い、しばらく本を熟読した。
図書館はただで勉強できてお得。
図書館内は広く、せっかくなので、魔法系以外の他の棚にも移動した。
ズラリと背表紙を見て行くだけで、おしゃれで美しい最高の映えスポットだ。
写真を撮ってSNSに投稿したいレベル。
どうも……恋物語の棚であるらしい。
女性受けを狙ったのか、この辺は装丁の綺麗な本が多い。
私は高い位置にある背表紙に手を伸ばしたが、身長が足りない。
椅子か梯子が必要だ。そう思った瞬間。
手が伸びて来た。
私以外の男性の大きな手。
「これか?」
「はい、ありがとう……ございます」
──珍しい。
私の夫だった。
恋愛ゲームならこれはイベントスチルになっているくらい、美しい瞬間だっただろう。
「私の中央宮での用事は終わったので、見に来た」
図書館を? 私の様子を? 夫はなおも言葉を続けた。
「何も問題は無かったか?」
「特には」
「そろそろ、皇都内のタウンハウスに戻るぞ」
「はい」
「その本は借りて行くと良い。持ち出し可の部類だ」
「ええ」
どうして、わざわざ私の様子を見に来たのかしら?
この人は私に興味がないはずなのに。
ラヴィに泣かれて妻のエスコートをする気にでもなったのかしら?
「行くぞ」
背中がついて来いって言っているので、大人しく司書のいる貸し出しカウンターへ向かった。
「これをお願いします」
「かしこまりました」
司書に借りる本を渡して、受け付けをしてもらった。
夫と廊下を歩くと、視線を集めた。
夫がイケメンなのもあるだろうけど、ディアーナも綺麗だからなあ、見応えはあるでしょうね。
何度か貴族っぽい相手に挨拶をされたけど、モブっぽい相手の名前が分からないので、その場はしばらく夫の隣で微笑むだけのマシーンと化した。
私をお忘れですか? などと突っ込まれたら、落馬して頭を打ったから記憶に一部欠損があり、忘れたって言い訳するしかないわ。
そんなこんなで夫と同じ馬車でタウンハウスへ向かうのであるが、馬車の窓から見える景色にはアーモンドの花の並木道があり、とても綺麗だった。
夫と会話しなくても、外の景色を見ていれば良かった。
今が春で良かったと思う。
まあ春夏は社交シーズンよね。
しばらく馬車を走らせ、タウンハウスに到着。
ここにも当然使用人達はいて、ズラリと並んで挨拶をされた。
せっかくなので、こちらのお屋敷にも目隠し間仕切り用カーテンの設置を執事に言いつけておいた。
夢中になって本を読んでいたせいで、食事を忘れていた。
昼食と夕食が一緒になってしまった。
食堂に行くと、珍しく夫と一緒に食事することになった。
一応パーティー前に注意事項を言っておこう。
「旦那様、私、頭を打ったせいで、一部の貴族の顔と名前が一致しないと言いますか……」
「忘れたのか?」
「簡単に言うとそうです。パーティーでは適当に誤魔化して微笑む係をしますが、何か相手から突っ込まれたなら、私は落馬で頭を打って記憶に一部欠損があると、正直に話してくださいませ」
「そうか、分かった」
旦那が無口なので、会話はそれで終了しそうだった。
でも、まだ話す事はあるわ。
「使用人部屋の改装をこちらの執事に申し付けました、明日はラヴィのお土産を探しに街に出ます」
「そうか」
明日の私のスケジュール申告だった。
食事の後にお風呂に入って、それから明日のお出かけに備える事にした。
いつものディアーナなら、明日は皇都の流行を追って、贅沢品の買い物か、どこぞのパーティーにでも出たろう。
そこかしこでイケメンを探して、誘惑して……。
でも残念ながら、ディアーナの旦那が一番かっこいいんだなぁ。
冷血でもラヴィの父親だけはある。
翌日になって、皇都の街へメイドのメアリーと護衛騎士四人を連れて向かった。
護衛騎士は二人でいいって言ったのに、夫が言うから、仕方なく。
ここでも使用人部屋のカーテンの布地を購入したり、自分用の布地も少し買ったり、ラヴィのドレス用の生地を買ったりした。
レースなんかも綺麗な物があったけど、家にもまだレース付きのドレスの在庫がいっぱいあるし、お高いので我慢して、かわいいリボンをラヴィと使用人にもお土産用に購入。
明日はいよいよパーティーだ。
タウンハウスのメイドに全力でスキンケアやヘアパックのような事をされ、食事の後は、花の香りに包まれて眠った。
* *
朝からメイクとかパーティー前の仕上げで屋敷内は戦場のような緊迫感。
使用人達は鬼気迫る様子でバタバタしているが、ディアーナは何もせずとも超綺麗なのだし、そこまで必死になる事はない気がするんだけど?
「今日も今のところ、怒られ無かったわ!」
などと言う使用人同士の話が聞こえた。
どうもディアーナの癇癪を恐れていたようだ。
かつて怒られた経験があるんだろうな。気の毒に。
今度のディアーナは私なので問題なく、パーティーの準備は整った。
さあ、皇室主催パーティーへいよいよ出発よ。
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