第11話 来たぞ、皇都!
「奥様、旦那様からドレスの贈り物ですよ!」
「まあ、珍しい、雪か雹か槍でも降るんじゃないかしら」
「最近奥様はご自分のドレスを買っていない上に、もうじき皇宮主催のパーティーがあるせいでは?」
「ああ、なんだ、世間体を気にしているだけね」
でも、そうね、パーティーは面倒だけど、ラヴィもいずれ社交界デビューする訳だし、多少なりとも、過去のディアーナのやらかしを考えれば、公爵家のイメージアップをしておいた方がいい。将来ラヴィも生きやすくなるかも。
それに、皇宮のパーティーより少し早めに行けば、皇宮の図書館に寄れる時間も多少は取れる。
皇都には公爵家のタウンハウスもあるし。
* *
パーティー数日前になって贈られたドレスを見たら驚いた。
「あら、このドレスは、ちゃんとコルセット無しで着る事が出来るエンパイアラインね」
「奥様が最近気にいっているデザインのものが有ればと、実は旦那様から聞かれてまして……それでこのデザインの物を用意されたのですね」
少しは自分の妻に気が使えるようになったじゃない。
私がラヴィを殴ったと疑った事、少しは反省しているのかしら?
ドレスをチェックしていると、ラヴィが私の部屋を訪ねて来た。
またうさぎのぬいぐるみを抱っこしている。
「お母様は……今日から皇都に移動なされるのですね」
「前乗りして皇都の図書館を見たくて、帰って来たらラヴィと遊んであげますからね」
「本当ですか!?」
「ええ」
どうやら一緒に遊ぶのワードに喜んでいる。
かわいい。
「あの、これ……」
「うん?」
ラヴィがうさぎをメイドに預けて、何かをポケットから取り出した。
「刺繍入りのハンカチ?」
「わ、私が手習いで刺した物です、まだあんまり上手く無いですけど」
かわいい鈴蘭の刺繍がされたハンカチだった。
「手習いの最初の一枚を私にくれるの?」
「はい……」
もじもじとしている。
かわいい。
「ありがとう、嬉しいわ、綺麗に縫えているわね」
上手に出来たから、これを見てほしくて、渡したくて部屋に来たのね。
いじらしい。
ラヴィを抱っこして頬にキスもしてあげた。
「お土産を探して来るから、危ない事はせずにいい子で待っているのよ」
「はい」
出発の準備を終えて、私は夫より先に皇都に行くつもりでいたのだけど、なぜか夫も同じタイミングで行くらしい。
* *
「皇宮の図書館に行くそうだな?」
「はい」
「私も皇宮に用がある。騒ぎを起こすでないぞ」
「ただ静かに本を探して読むつもりです」
監視のつもり? 昔のディアーナと違い、男漁りに行く訳じゃないのよ。
* *
皇宮近くの神殿の転移陣を経由し、皇都に到着した。
反乱、そのような事もありえない事もない訳で、皇宮に直接は飛べない仕様だ。
私は皇都見物も気になるけど、魔法の本が読みたくて皇宮へ向かった。
皇宮内の図書館に着いて、夫と別れた。
なんと図書館前まで夫はエスコートのフリしてついて来た。
鎖に繋がれた持ち出し禁止の本は、ここでしか読めない貴重品。
私はここぞとばかりに魔法関係の必要文献を頭に叩き込む。
「おや、アドライド公爵夫人ではありませんか、このような場所でお会い出来るとは思いませんでした」
「ご機嫌よう、皇宮魔術師殿」
私に無遠慮に声をかけて来たのは、バランタン・ベルモン。皇宮魔術師だ。
面白い事が大好きな風変わりな男だ。
顔はそれなりに良い。
しかし、ディアーナが男漁りじゃなくて本を読んでるのがそんなに意外か!?
「読んでおられるのは鑑定と結界の本ですか、そう言えば、魔力が解放されて魔法が使えるようになったと伺っております」
「耳が早いのですね、バランタン卿」
「使える者が少ない癒しの魔法が使えるとなれば、噂は千里を駆け巡りますよ」
「そこまでではないでしょう、神官や巫女には使える者がいますし」
「そうです、通常は癒しの力を得た者は神殿に取られますから」
一般的には弱き者や他者にも優しく、思いやりを持てる者に癒しの力は顕現すると言われているせいで、気位の高い貴族階級の者がその力を得る事は稀である。
「それで、何が言いたいのですか?」
「今からでも、旦那様と別れたら私の元に来ませんか? 関係は冷えきっているのでしょう?」
「はあ? 私には既に子供もいるのに、なんて事をおっしゃるのかしら。
この事は聞かなかった事にします」
「おや、残念」
全く雑な口説き方をする男だわ!
それにしてもレアな癒しの力を得た途端にこの手の輩は増えるのかしら?
ラヴィアーナも原作通りに聖女として覚醒した後が大変そうね。
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