第2話 娘の誕生日。

「え!? お母様が私の誕生日を祝ってくださる!?」

「そうです、お嬢様、誕生日のお祝いはサロンで行いますので、急いで準備をいたしましょう」

「わ、私……今日、死ぬの?」


「誕生日ですよ! お嬢様! 流石にそんな事はありませんよ!

確かに今までの奥様からは想像も出来ませんが、落馬し、頭を打って死にかけて、愛を、最も大事なものは何かを、知ったのかもしれませんわ」



 ──そんな会話が、メイドと娘の間で、娘の部屋でされてる事など知らずに、私は娘の誕生日の為、準備をしていた。



 とりあえず、夫から小切手は貰ったけど、使ってはいない。

 必要な時に使いましょう。

 夫達男性は一旦、部屋を出て貰った。着替えをするので。



「く、苦しい、やはりこんなコルセットなんて拷問具はいらないわ」



 誕生会用に、ドレスを着替えようとしたのだけど、


「しかし、奥様、ドレスはどれもコルセットありきでオーダーされて作られておりまして」


「一着くらい、妊娠中に着てたお腹周りに余裕があるのがあるはずでは!?

エンパイアラインの!」



 胸の下に切り返しのある、ウエストを絞っていないデザインの!



「あ、そんな古い……妊娠中の物でよろしいのですか? 

一度袖を通した同じドレスは着たくないといつもおっしゃっておられたのに」



 クソ贅沢なセレブ妻だった!



「そんな贅沢な事は、もう言わないわ」

「では、妊娠中に着ていた物を衣裳室で探してまいります!」

「ええ、お願い」



 * *


「流石に妊娠中に着ていたドレスは入るわね」

「ようございました」


 ディアーナの衣裳室を見たら、凄じい量のドレスがあった。

 税金の無駄遣い過ぎる!! 怖い!!

 マリーアントワネットの事が脳裏に浮かんだ。



 今度お直し……リメイクして着れるように改造しよう。

 背中を一旦開くとか腰回りに手を入れて……。

 コルセット無しで着れるように……。


「髪飾りはいかがいたしますか?」

「いっぱいあるけど、せっかく春で庭にお花も咲いているから、花を一輪摘んで飾るわ」



 ふと見ると、花瓶に綺麗な白いバラが飾られている。



「これで良いわ」


 私はバラの茎の水気をきり、やや短く切って、髪に飾った。


「流石奥様、何を飾ってもお綺麗です」

「ありがとう」


 ディアーナに忠実なメアリーが褒めてくれたので礼を言うと、他のメイドは驚きの表情だった。

 多分、普段はメイドにお礼など言わないんだろうな。



 さて、そろそろ夕刻。晩餐の時間。

 サロンで娘を待っていると、ついに怯えた表情で、聖少女の詩のヒロインたる、我が娘が入ってきた。


 やだ──っ! 自分の娘に怯えられてる──っ!!


 顔色が悪いわ。

 小刻みに震えているし、まるで怪我して人間に保護されたばかりの怯える野生の小動物。


 でも、やはりヒロイン、七歳でも可愛い!!


「ラヴィアーナ、七歳のお誕生日、おめでとう」


 私は膝を折って、背を低くして、目線を合わせるようにして、私から声をかけた。

 努めて優しい声で言ったつもり。


 ラヴィは大きく愛らしい目を見開いた。


「あ、ありがとうございます……お母様」

「さあ、席に座りなさい」


 私はラヴィをソファに誘導して座らせた。

 まだ足が震えててかわいそうだ。


 テーブルの上にはいろんな豪華な料理が並べられている。

 私が買ったケーキも有る。


「旦那様がお越しです」


 アレクシス! よし、男前に相応しい華麗な装いで来たわね。


「ラヴィ、誕生日おめでとう」

「あ、ありがとうございます、お父様」



 夫からは私から買い取ったピンクのバラの花束とオルゴールが贈られた。



「これは私からよ、他には後日ドレスショップの者が来るから」

「うさぎ……さんのぬいぐるみ……」


 娘は震える手でプレゼントを受け取った。オルゴールは落とすと危険なので一瞬手にした後でメイドが受け取り、テーブルの上に置いた。


 今はうさちゃんぬいぐるみを抱きしめている。

 かわいい。


「どうかしら、気にいらない?」

「いいえ! 全部嬉しいです!!」



「世間では、誕生日にケーキの蝋燭を吹き消して、願い事をするらしいわ」


 ラヴィは目がうるうるとしている。


 初めての誕生会で感激しすぎたのかな?

 なんとか頑張って七本の蝋燭の炎を吹き消した。


「「ラヴィアーナお嬢様、七歳のお誕生日、おめでとうございます!」」



 使用人達も空気を読んで、娘にお祝いの言葉をかけた。



「ありがとう、皆さん……」



 ホールケーキは執事の技術で綺麗にカットされた。



「ラヴィ、好きな物を好きなだけ食べてね」

「……はい、お母様」

 


 ケーキやご馳走を皆で美味しくいただいた。


 本当はラヴィを抱きしめておめでとうって言って、頬にキスなどしてあげたかった。

 でもまだ、怯えているようだから、スキンシップは早いかなと判断した。


 信頼を得るには、もう少し時間が必要だった。



 * *



 とにかく、何とか無事に娘の誕生日を祝う事ができた!

 プレゼントも渡せた!


 後は後日、娘の誕生日祝いのドレスをオーダーし、私は自分のドレスを改造してまた着ようと思う。

 一回着たらもう着ないのは贅沢過ぎる。


 普通は宝石やレースなど高級な物を取り外し侍女に下げ渡すようだけど、性格の悪い傲慢なラスボス系悪女はそんな事はしていない。


 まず、性格が悪すぎてすぐに癇癪を起こすディアーナ。

 それで貴族の令嬢の侍女も泣かせる為に、もはや皆、辞めてしまってる。


 今は平民のメイドしかいない。

 お金の為に仕方なく仕えてる系の人しかいない。

 メアリーだけは拾われた恩義で仕えてるが。


 私はその夜、入浴後にフカフカのベッドで寝た。

 一人で。

 夫は相変わらず私の部屋に来ない。


 家督を継げる男の子を産めないと、貴族の夫人ってダメなやつレッテルを貼られるらしいのだけど、旦那が来ないのだから、仕方ない。

 一人で寝る。


 おやすみなさい!!

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