【書籍発売中】転生したらラスボス系悪女だった!
凪
第1話 異世界転生憑依的なアレ。
「大変だ! 奥様が落馬された!」
「ディアーナ様!? 大丈夫ですか!?」
「頭から血が! 早くお医者様を!」
どうも落馬したらしい私。
目の端に木々が見える。お外……。
近くで人が騒いでいる。
──でも、待って、奥様!? ディアーナって!?
私はブラック企業で働いて……過労死した社会人の佐藤 果穂!
ぼっちで彼氏もいないオタクなのに、奥様って呼ばれた!?
……あ、だめ、意識が……朦朧と……。
シャッ……と、ふいにカーテンが引かれた音がして、朝日が部屋に差し込んだ。
私が目が覚めたら、病院のベッドの上だった。
見知らぬ天井ってやつじゃん。
「奥様! お目覚めになられましたか!?」
「奥様って……?」
「公爵夫人!?」
「ディアーナ様、まさか頭を打った影響で記憶が!?」
「お医者様を!!」
なんかどっかで見た事あるパターンだわ、ラノベでよくある。
まさか、私の身にも異世界転生!?
「だ、誰か、鏡を見せて下さい」
──鏡を見て分かった。
私は……とあるファンタジー小説の中の世界のラスボス系悪女になっていた!!
私の名は、ディアーナ!
蜂蜜色の豪奢な金髪、甘い蜜のような琥珀色の瞳。
天使のように美しいが、性格に難の有る、毒のある美女。
元侯爵令嬢、ただし、結婚後に公爵夫人になっている。
ゆえに既にアレクシスと言う夫がいるし、なんと娘もいる!
私は神絵師により、挿絵、コミカライズと恵まれていたこの作品を読んでいた。
だって絵がめちゃくちゃ綺麗で好みだったから。
幼女時代からヒロインの娘は可愛いかったし。
そう、そしてこのラスボスのディアーナ、結婚してるけど、夫じゃなくて、実は惚れてる相手がいた。
相手は金髪碧眼のイケメン皇太子! フリードリヒ!
しかし、ディアーナは実は凄じく魔力が有るのに、魔法を使えないポンコツだった。
落馬して生死の境を彷徨い、魔王配下の魔族が施した封印が解けるまでは。
魔力測定でも魔力が強大すぎて測定不能、逆に魔力無しと思われていた。
周囲は封印に気がつかず、ディアーナ侯爵令嬢をただの落ちこぼれとみなした。
真っ当な貴族は魔法が使えるものなのだ。
この世界では。
それこそが平民と貴族を分ける証のようなものだったから。
こんな落ちこぼれ、どんなに美しく天使のような容姿であっても、侯爵令嬢と、身分が高かろうと、皇太子の妻にはなれない。
そう、しかし、血統と容姿だけはいいので、皇帝のゴリ押しで冷血公爵と言われる男との縁談が強制的に決まった。
皇帝はパワーバランスを考えたのだ。
お強い夫の公爵が有力な妻と結ばれて欲しくない皇帝は、ポンコツを充てがった。
公爵も皇帝命令では、文句が言えなかったと思われる。
愛も恋もない政略結婚で、ますますラスボス系悪女の心は荒んだ。
魔族の、魔王の器は、屈辱、怒り、絶望の負の感情を溜め込み、見事に魔王の器に相応しい者となってしまったのだ。
なお、この小説の主人公は新婚初夜の義理的初夜の、一夜限りで出来てしまった娘の……恋人の勇者!
娘はそんな勇者のパートナーの聖女。
娘のパーティーに倒されるラスボス系母親。
なんて酷いポジションだろう。
ディアーナはラスボスとはいえ、見た目だけは天使のように綺麗だった。
社交界では見た目だけは極上のディアーナに男達はむらがった。
どうもナチュラルに魅了してしまうらしい。
恐るべし魔王の器。
悪女と言われるのは、夫がいるのに男を惑わすからだ。
婚約者がいる相手まで、ワンチャンあるか!? と、惑わせといて寸止めで翻弄する系の悪女だ。
なんて酷い。
ギリギリ貞操は守っていると言えば聞こえはいいが、誘惑された男の婚約者側のレディー達には憎しみの対象だった。
すまんな、マジで、私であって私じゃない過去のディアーナの悪行で恨みをかっている。
でも私じゃないんだ!
前世本読んだりゲームばかりのただのブラック企業で過労死したオタクが、男の誘惑など出来るはずが……。
落馬のショックで間違えて本来のディアーナが死んで、私の魂が入ったようなのだ。
ヒロインの娘は今はまだ幼女のはず。
成長しても輝くばかりに可愛くて綺麗だったが、今ならシナリオの修正が利くのでは!?
とにかくラスボスになって娘の男に殺されたくないので、なるべくストレスなく穏やかに過ごしたい!
魔王の器候補は他にもいたらしいのだ。
だったら私がラスボスにならずとも!
と、思う。だって普通に怖い。討伐されるの怖いから!
娘の心も傷つくよ、いくら誕生日すら祝ってくれない冷たい母親でも、いずれ殺す運命なんて。
誕生日……! そうだ、娘の誕生日なのに放置して遠乗りに行って、落馬したんだわ!
誕生日を! 祝わないと!
私は病院のベッドから身を起こした。
「奥様、まだ安静に、頭から血が出ておられたのですよ、処置は致しましたが」
医者が安静にしろと止めてくるが、ディアーナは確か落馬後に覚醒する。
封印が解けているなら、魔法も使えるはず。
『ヒール!!』
私は自分の手を自分の頭にかざし、治癒を行った。
「え!? 奥様、魔法が!?」
専属メイドのメアリーが叫んだ。
コミカライズで見たから顔は知ってる。
「治ったわ、プレゼントを買いに、行かなくては」
「プレゼントとは!? まさか」
「今日は、娘のラヴィアーナの誕生日でしょう!?」
「そ、そうですが、今朝は興味が無さそうでしたのに、遠乗りにも出かけて」
ああ! 今までは酷い母親だったからね!
「そんな事より、服は!? 着替えがしたいの!」
今、私は寝巻きのような物を着ている。
病院だから!
「た、ただいま用意致します!」
バタバタとメイドが着替えの用意をしてくれたので、私は頭の包帯を取って、着替えを終わらせ、街の雑貨屋へ向かった。
七歳の女の子の喜ぶ物……ぬいぐるみとかでいいかしら!?
私はメイドのメアリーをお供に雑貨屋に飛び込んで可愛い物を探した。
「このうさぎのぬいぐるみと、妖精のオルゴールを包んで!」
「はい! 公爵夫人!」
店員さんも慌てて商品を包む。
「次は、ケーキとドレスと、あ、ドレスはサイズが分からない!
花!」
ケーキ屋でホールケーキを買い! 次に花屋に寄って、ピンクのバラの花束を購入!
いざ、自宅へ! 馬車に荷物を詰め込み、娘のいる公爵邸へ!
屋敷に戻った。
メイド達がギョッとする。
ディアーナは落馬して病院だったし、まだ帰らないと思っていたのだろう。
すぐに癇癪を起こすディアーナはメアリー以外の使用人に嫌われている。
メアリーだけは昔、孤児で空腹のあまり、野垂れ死にしかけていたところを、気まぐれに救った為、ディアーナに忠誠を誓って、健気に尽くしている。
「ラヴィはどこ!?」
「ご自身のお部屋におられるかと……」
やっぱり原作通りに誕生パーティーすらして貰っていない!
せめて父親くらい祝ってやれと言いたい!
「サロンにラヴィの誕生日パーティーの用意を! 大至急!」
「え!? お嬢様の誕生日パーティーを今からですか!?」
「そうよ! 身内だけでいいから!!」
「ど、どうなされたのか、頭を打って何かおかしく……」
執事が小声でなんか言ってるけど、聞こえているけど、気にしてる場合じゃない!
私は買って来たケーキをテーブルの上に置いた。
今からチキンなどを焼けば、夕食、いえ、晩餐には間に合う。
私は厨房に走った。
「今晩のメニューは!?」
私の目に飛び込んで来たのは豚の丸焼きがあった。
「ああ! それなりに豪華なメニューがあるわね! グッジョブ、いい働きよ!」
娘は使用人に気を使って貰っていたようだ。
流石公爵邸、晩餐に豚の丸焼きとかある。
まあ、切ってから出すと思うけど。
「え!? 今、奥様に褒められた!?」
あからさまに驚くシェフ。
とりあえず食事問題はどうにかなりそう!
「今夜の食事は食堂ではなく、サロンでするから、そちらに運んでちょうだい! 娘の誕生会よ!」
そう言い放ち、私は邪魔だろうから、厨房を出た。
……ここは、公爵邸! つまり聖地! 推しのヒロインの住む場所!
そうだ、準備が出来る間に聖地巡礼をしよう!
まずは自室! 寝室!
私は自室のベッドにダイブした。
ふふふ、聖地巡礼で、真っ先に寝室のベッドに行くのは私くらいかもしれない。
他に見たことない。
気がついたらベッドの上にいたってのはよくあるけど、自主的に聖地として赴いたのだ。
しかし、ここで推しの命が芽生えたのよ!
このベッドの上で! このお腹の中で、推しのヒロインの命が育まれ……。
「お、奥様! 大丈夫ですか!? いきなりベッドに倒れこむなんて、やはりまだ安静にされていた方が……」
「ち、違うわ! ベッドが好きだから、思わず飛び込んでしまっただけよ!」
慌てて身を起こし、弁明を始める私。
しかしどういう理由だ。
お布団大好き人間は私の他にも大勢いるはずだけど、貴族の奥様の言動としておかしかったわね。
聖地にいることで、私は明らかにテンションがおかしくなっていた。
「お、奥様、ドレスが皺になってしまいます」
恐る恐る他のメイドが言葉を発した。明らかに怯えている。
機嫌が悪いと元のディアーナは物を投げたり、酷いから、普段からメイドが怯えるのよね。
「そうね、もうすぐ娘の誕生会だし、起きるわ」
ベッドから起きて、乱れた髪を手櫛で揃える。
すると、ノックの音がした。
「開いていますわ!」
いけない、叫ぶ事なかったかしら!? でもお部屋が広いから!
「奥様がお戻りになったようなので、旦那様が」
多分扉の向こうにいるのは屋敷の執事! と、冷血と言われている夫、アレクシス登場って事ね!?
正直ビジュアルは金髪の皇太子より旦那の方が好みなのよね、黒髪にブルーの瞳のアレクシス。
扉を開けて入って来た。
夫は初夜ぶりにこの部屋に来たんじゃないかな?
「頭を打って病院にいたらしいのに、自分で治癒魔法を使って戻って来たとは、本当か?」
「まず、大丈夫か? と、安否を聞いてはいかが!?」
アレクシスは胡乱げな眼差しでこちらを見ている。
足の長い長身の男なので、私は見下ろされている。
「……何だ、本当に元気そうではないか。
しかもラヴィアーナの誕生日を祝うと聞いたが」
「そうです! 晩餐はサロンで、誕生日パーティーをしますので、貴方も参加してくださいね! 父親なんですから!!」
「……やはり、だいぶ頭を強く打ったのか……」
なんか失礼だな、本当の事とはいえ。
「したたかに頭を打ってしまったのは事実ですが、それで娘に優しくしようというのが悪いことですか?」
「いや……驚いただけだ。ところで魔法が使えないはずがどうして」
やはりそこが気になるのか。
「死にかけて覚醒とか、わりとある事だと思いますわ!」
「……それは……そうかもしれんが、驚いた」
その割に顔はクールなままだぞ。かなり。
「とにかく、晩餐時にはサロンへお越しください。あ、そうだわ、花!」
「奥様、これですか?」
「そう、それ」
メアリーが慌てて花屋で買って来たピンクのバラの花束を差し出した。
「この花束を貴方からって事にして、颯爽とサロンに登場して、娘に渡して下さい」
「君からでいいのではないか?」
「私は他にプレゼントがあります、貴方は何かあるんですか?」
「……本だ」
え!? あったの!? 冷血夫が!?
「何の本です?」
「礼儀作法と帝国の歴史の本」
つまらん!!
「教科書じゃないですか! 面白くもない!」
「だが、必要な物だ」
「全く誕生日向きじゃないわ!
ああ、仕方ない、このオルゴールもつけます、花束と、オルゴールも手渡してあげて下さい」
私はさっき雑貨屋で買って来た贈り物を夫に押し付けた。
「君の分が無くなるのでは?」
「私はうさぎのぬいぐるみを……それと後からドレスを仕立てる為、ドレスショップの者を呼びますわ」
「そうか……」
公爵は懐から財布を出して、私に小切手を渡した。
「プレゼントを買い取ろう。好きな金額を書くといい」
「そんなのはいいので、ちゃんとラヴィにおめでとうって言って、贈り物を渡して下さい」
なんだって!? と、周囲が驚きに固まった。
お金大好きの今までの浪費家の極悪公爵夫人とは思えない! と言った雰囲気だ。
キャラが違いすぎて、周囲が戸惑っている。
でも、せっかく頭を打ったわけだし、性格がやや変わったと思わせておこうと思う。
ここから、今日から、私の、推し活と、ラスボス回避の生存戦略が始まるのだから!
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