こだま

 

 こだま


 こだま。それは山でヤッホーと言えばYAHOO!と返ってくるやまびこのことではなく、木に宿る精霊のようなものの事だ。漢字で書くと「木霊」なのだろうか。





「もーいーかい?」

「まーだだよ!」

瑛太達三年生は遠足で学校からそう遠くない大きな公園に来ていた。

かくれんぼはどこでも出来る最強の遊びだ。今回は瑛太は隠れる側。隠れていい範囲は公園内の林全体だ。

そうだ!見つからないように林の奥の方に行ってやれ!

瑛太は木々の間をずんずん進んだ。林の真ん中の方へ進むといい隠れ場所を見つけたので瑛太はそこに座りひとまず鬼が来るまではそこにいることにした。

...

来ない。隠れたから10分近く経ったはずなのに。

「仕方ないなー。」

瑛太は心細くなっていたのもあり、みんながいる広場に戻ることにした。

来た道をしばらく戻っていると、瑛太は自分を呼ぶ声が聞こえた。

「えいたーー!!」

瑛太は安心から、声が聞こえた方へ走っていった。

「あれ?」

誰も居ない。

確かにこの辺りから聞こえてきたはずだ。

「おーーい!」

「ゆうたーー?」

「けいすけーー?」

呼びかけてみるも返事はない。

おかしいな。

いないならしょうがない。瑛太は来た道を引き返そうと、後ろをふりむいた。

「あれ」

どっちから来たっけ?

こっちか?いやでもあの木は見たことがない気がする。そっちか?いや、そっちも違う。

「うう...」

瑛太は頭を抱えた。


「あははは」


「え?」

誰かの笑い声がする。

「迷ったの?」

後ろを振り向くと


化け物がいた。


「うわぁぁぁっっ!!!」

その化け物は人のようだけど、人じゃない。顔が人のものじゃない。犬のような…

いや、違う。図鑑で読んだ。これは狐だ。

「だから、迷ったの?」

狐の化け物は少し笑いながら言う。

「う、うん。」

瑛太はおそるおそる答えた。

「案内、しよっか?」

化け物は言う。

「え?してくれるの?」

瑛太は恐怖も忘れて聞いた。

「してもいいよ。」

化け物は相変わらず少し笑いながら言う。

「お願いします!」

瑛太は誠心誠意を込めて言った。

「うむ、いいとも」

化け物はそう少し満足げに言うと手を大きく振り下ろした。

その途端、急に辺りの景色が水に溶けたかのように歪み、混ざり合って灰色になった。

次の瞬間、瑛太は気づいたらさっきまでとは別の場所にいた。

「そっちに行けばすぐ他の人間がいる広場に出るよ。」

狐の化け物は木々が薄い方へ指を向けながらそう言った。

「ありがとうございます!!!!!」

瑛太はペコっとお辞儀をすると狐が指した方向へ向かって歩き出した。


「待て」


「え?」

その瞬間、瑛太は狐の化け物の前に移動した。

「で?そのまま帰るの?そのまま?」

狐の化け物はそう笑いながら言った。

「は、はい...。助けてくれてありがとうございました...?」

瑛太はなんと答えたらいいのか分からずそう答えた。

「それだけ?」

狐の化け物は続ける。

「お礼もなしに?君さ、僕の森で騒いでたんだよ?それでも僕が君を親切心で助けてあげたんだよ?なにか『対価』は支払ってもらわなくちゃ。」

「えっと...お金は今持ってなくて...」

瑛太は小さな声で言う。

「お金?いらないよそんなもの。僕が欲しいのは『』なんだよ。」

狐の化け物は満面の笑みで言う。

「え?そんな...無理です!」

しにたくない!瑛太は必死に言った。

「他のものじゃダメですか?食べ物も持って来れます!...殺さないでください!」

「あー、魂とったくらいじゃ死なないよ。体はね。それと勘違いしてるようだけど君の魂じゃなくてもいいんだよ?」

化け物は葉っぱでお手玉をしながら言う。

「君のお友達でもいいし、嫌いな先生でもいいし、知らない人でもいい。」

化け物はニヤリと笑った。

「いつまで考えてもいいよ。じっくり考えな。もちろん君のをくれてもいいんだよ。ただし決めるまではここから離れられないよ。」



狐霊こだまはほくそ笑んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

中田原地区怪奇風聞集 r>ce powde= @rice_powder

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ