第16話 力は人間並みで血が飲めず、おいしくコンビニ飯食べるって、それもう吸血鬼じゃなくてただの人間では?②



能丸からホットドッグを奪い取ったルナ。


「ほー、これが熱い犬か……いうほど熱くないのう。温かいくらいじゃ。このくらいでホット名乗るとか、魔界のヘルドッグがキレ散らかすぞ」


「ヘルドッグって食べ物……じゃないよね?」


「うむ。魔界で大人気の愛玩動物でな。首が2本ある上に口から火を吹く」


「すごいね」


「は? 我の方がすごいが?」


(犬と張り合っちゃうんだ……)


能丸は、ルナの主張に内心でツッコんだ。



そしてルナは、ホットドッグの包みを開封する。しかし


「!? これおぬし……ケチャップがかかっとるじゃないか!」


驚愕の表情を浮かべるルナ。



「え、ケチャップダメなの?」


「我は最近、血液恐怖症になってこういう赤いドロっとした奴はダメじゃって言うたじゃろうが!!」


おぇっと空ゲロを吐くルナ。



「初めて聞いたけど、ごめんね……」


「ったく……我が全盛期じゃったら処刑もんの不敬じゃぞ……ん? その袋、まだ何か入ってないか?」


能丸の持っていたコンビニの袋がまだ空でないことを、目ざとく見つけたルナ。



「ああ、こっちは一緒に買ったアメリカンドッグだよ」


「それも犬か……人間って犬好きすぎじゃね? そっちにも犬の肉が入っとるのか?」


「ホットドッグにも、アメリカンドッグにも犬は入ってないよ! 怒られるよ……」


「そのアメリカンにケチャップは?」


「普通はつけるけど……後付けするタイプだから、今は塗ってないね」


「じゃあ、我そっち!」



サッと能丸のコンビニ袋とホットドッグを交換し、クンクンと犬のようにアメリカンドッグの匂いを嗅ぐルナ。


「ふむ、なんか甘系の匂いするのう。我は山パンで様々な甘系パンに触れてきておるから、味にはうるさいぞ?」


市販の菓子パンで、美食家気取りである。


そして、ルナは大きく口をあけてさっそく一口。



「んむんむんむ……」


目を閉じてしっかりと味わうルナ。


「どうかな?」


能丸が尋ねるとルナはカッと目を見開く。


「うまい! なんじゃこれ!」


「アメリカンドッグだよ」


「そういう意味で言ったんじゃないわい!!」



怒りつつさらにもう一口頬張るルナ。


「むぐもぐもむ……これはなんか、この衣の部分が、こう……ちょっと油っぽくて、カリッしたのとシナッとしたのが混ざっておる!!」


「それは……褒めてるよね?」



「褒めまくりじゃい!! 中のソーセージもこれはアレじゃな! 我が山パンで食った『まる●とソーセージ』のやつに似とる! へにょっとしてて風味とかない感じのあれ!」


「……ルナさん、食レポ下手だね」



「どこがじゃい!! テレビで全ての食べ物に対して『わ~、柔らかい~』って言う人間どもより100万倍、知的じゃろうが!」


「………………確かに」


能丸は芸能人やアイドルの食レポが頭をよぎって、言い返すことができなかった。



「しっかし、人間の食べ物うますぎじゃろ……吸血鬼じゃからって、血だけ飲んでたのマジで人生の半分損しとったわい」


そのままガツガツとアメリカンドッグを食べきったルナ。



そして串を能丸に渡してくる。


「ん」


「自分で捨ててね……というか、もう食べないの? それ」


「我に串を食えというのか!? おいおい、我が全盛期ならおぬしの肉体は今頃コナゴナじゃぞ!?」


イキりまくるルナ。


能丸は言葉を付け足す。


「違う違う! ほら、アメリカンドッグの最後にカリカリが残ってるでしょ?」


「この串についとる残骸か? こんなん食わんし」


「そっか。そこが一番おいしいんだけどなぁ……ちょっとお行儀悪いけど」


「これがか~?」


ルナは疑り深い目で、ホットドッグのカリカリを見つめる。



「うん。私は食べちゃうなぁ」


「……一番うまくなかったら、追加でもう一本買ってもらうからの」


そう言って、ルナはアメリカンドッグのカリカリをかじる。



「…………っ!?」


目を見開いたルナはそのまま固まってしまう。



「あれ……美味しくなかった……?」


能丸が尋ねるとルナは、ハムスターのように一心不乱に串にかじりつく。



「な、なんという物を食わせたくれたんじゃ……! なんという物を……!」


食べながら滂沱の涙を流して感動しているルナ。



「え……そこまで?」


引いている能丸。



「このカリカリの部分に比べたら、アメリカンドッグの本体の方なんかカスじゃ!」


「言いすぎだよ……」


「いや、実際うますぎじゃろ! 全国のコンビニでこの部分だけ売るべきじゃって!」


ルナは興奮している。



「うーん、そういうのは蓋についたヨーグルトみたいなもので、少しだけあるからいいんじゃないかな?」


「フタニツイタヨーグルトとかいう食べ物も、アメリカンドッグのカリカリレベルでうまいのか!? おいおいおい、日本の食べ物どうなっとるんじゃ! ほれ、能丸! 急げ!」


「え、どうしたの?」


「フタニツイタヨーグルトも食うにきまっとる! おぬしの金でなぁ!!」


そう言ってコンビニに駆け出すルナ。



「ま、また私が払うの!?」


そんなルナを慌てて追いかける能丸であった。

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