第14話年金って将来本当に貰えるのかわかんなくて結構ビビるよねの巻③
「え、えっと……じゃあ、私これで……」
能丸はここまでなんとか付き合ってきたが、ルナの頭には、だいぶ春が訪れているあることを再確認した。
これ以上一緒にいるのはヤバイと判断した彼女は、そそくさとその場を後にしようとする。
「まあ、待て。我のような高貴な存在に仕えるのが恐れ多いというのはわかるが、恥ずかしがらなくてもええんじゃぞ!」
自信満々にフフンと、人差し指で鼻をこするルナ。御年3000歳はドヤ顔の表現が古い。
呼び止められた能丸は、ルナの恰好をよく見る。
サイズが合ってない白Tの裾には、ジャムをこぼした跡があり、下はジャージにパチモンのクロ●クスで、高貴とは対極のいで立ちだ。
「あの、すみません……急いでいるので……」
「我も急いどる! 気が合うのう。さっそくネンキン貰いに行くぞ!」
「ええ……いや、なのね。ついて行くこと前提になってるけど、そういうことじゃなくて……あ、そうだ。警察に――」
「け、警察!?」
驚いた猫のように飛び上がったルナは電柱の後ろに隠れる。
「けけけけ、警察がいるのか!? どこじゃ!?」
「…………あの、違うよ。警察というか交番なら、道をちゃんと教えてくれるから、そっちを頼った方がいいよって言おうとしただけで……」
「な、なんじゃ……ふう、いやまあ別にビビってるわけではないが? 我も無駄な殺生はしたくないみたいな感じじゃし?」
「めちゃくちゃビビってるんように見えるけど……」
思わずツッコむ能丸。
「は、はぁ!? どこがじゃ!? なんじゃコイツ! めっちゃ不敬じゃわ~! これは市役所まで連れて行って貰わねばなぁ!」
「論法が無茶すぎるって……」
ルナがあまりにもコミカルな存在すぎたおかげで、能丸に秘められていたツッコミの才能が開花してきたようだ。
「んが~! いいじゃろが! 連れてけ連れてけ!」
ばたばたと駄々をこね始めるルナ。
「ちょ、ちょっと……! 困るよ!」
「我はおぬしより困っとるわい!」
「……あ、警察官さん」
「ふおぉっ!?」
ルナは能丸の言葉に、一瞬で駄々っ子をやめて慌てて周囲を確認をする。
「……もしかして、あなた何か悪いことしたの?」
「ま、まだ何もしとらんわ!」
「まだって……何する気だったの?」
「そんなもん世界征服に決まっとるじゃがい!」
「ふざけないで……」
「ふ~ざ~け~と~ら~ん!!!」
「ふざけてないなら、別の意味で怖いよ……」
引いている能丸。
ルナは久しぶりに怖がられてすごく喜ぶ。
「え! 我怖い? 怖いよな! やっぱりなぁ隠しきれないオーラが出ちゃってるわなぁ」
能丸は、そういう怖さじゃないという目線を向けつつ、アホ(ルナ)の顔を見て、その能天気さにちょっと笑ってしまう。
「ふふ……」
この能天気さなら悪い子ではないだろうと能丸は思う。
だが、普通に詐欺とか闇バイトに引っ掛かりそうで、かなり不安も感じた。
(この子……私が、なんとかしてあげないといけないのかもな……)
「どうしたんじゃ?」
ルナが能丸の顔を覗き込む。
「ううん……えっとルナさん、だっけ。いいよ、案内するね」
「お!? ほ、本当か!? え、マジで我の魅了スキル復活してるんじゃないか、これ!?」
「そっか。よくわからないけど早く行こうね」
子供を諭すように優しく言う能丸。
「そういうスルーな態度やめろ! もっと構って!!」
「ご、ごめん……! でも、私もバイトあるから……」
「何!? バイトか、それはいかんな! バイトに遅刻すると金がもらえんし、怒られるからな!」
(あ、ルナさんって、そういう常識はあるんだ……)と、能丸は内心で思った。
「本当にどこのバイト先でも正社員というやつは、どいつもこいつも我を見下しおって……! 我が世界を手にした暁には、正社員どもは全員、地下労働施設行きにしてやるわい!」
「全然常識とかなかったね……」
「何がじゃ?」
「ううん、じゃあ行こうか」
「うむ! 待っておれよ、ネンキン!」
こうしてルナは新たな配下? 能丸里依紗を従えいよいよ、市役所へと向かうのだった。
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