第10話「ようやく山パンでバイトするために、この世界に来たわけではないことを思い出した吸血鬼」

「ただいま戻ったぞ~」


山パンの派遣で精神と時の部屋を体験したルナは、堵々子の家に帰ってきた。

「おかえり、ルナちゃん。バイトどうだったんだい」

「おう、仕事中に魔法使いが攻撃を仕掛けてきてのう。時間停滞魔法を食らって、アンパンの観察が地獄じゃったわ……5分が1時間に延長されておった」

「へー、お疲れさん」


「でものう! 飯休憩の時、廃棄のパン食べ放題じゃったんじゃ! すごくね!?」

「いいじゃないか。お土産ないの?」

「持って帰ったらダメって言うんじゃ。非人道的じゃ。まあ、我も人間じゃないが。代わりに腹が破れる寸前まで食っといたわい」

「よかったねぇ。でもルナちゃん吸血鬼なのに、なんでパン食ってんだい?」


「おぬしの血が不味すぎて、血液恐怖症になったんじゃろうがい!! あれ以来、血見るだけで、げーするわ! 口に含んだら、今度こそ目を覚まさん自信あるぞ!」


「あーっはっはっは! そうだったそうだった! またボケてたよ」

堵々子は元々90代後半だったことに加え、死後少し経過していたため、脳みそも若干熟成されており物覚えが悪い。


ゲラゲラ笑っている堵々子にやれやれと首を振るルナ。

「ったく……あんな危機的状況じゃなければ、おぬしの血など絶対飲んでないし、今頃は美少女の血で魔力を回復させて世界征服を達成していたものを……今日の仕事中もそれを思い出して空ゲロが……ん?」

そこで、ルナはぴたりと止まる。


「どうしたんだい?」

「我、さっきなんて言っておった?」


「えーっと……確か、美少女の十二指腸が、アラスカの空に向かって冷たいシャワーを浴びせていた。鯨のボタンコレクションはヨーヨーの軌道を揺るがし、レモンピールのアンダーグラウンドなグラフィティは……」


「待て待て待て待て待て! バグりすぎじゃ! そんなん絶対言ってないって! 大丈夫か!? 防腐剤足りてないんじゃないか!?」


ルナは慌てて押し入れから『タンスにゴンゴン』を持ってくる。(※タンスにゴンゴンは衣類用防虫剤であり、防腐剤ではありません)

「あっはっは! 今のはワザとだよ。アンデッドジョーク~」

「ホントにビビるからやめろ!」

「あっはっは。それでえーっと、ルナちゃんがなんて言ってたか、だっけ。なんかアタシの血がまずいとか、魔力が回復するとか……」

「そうじゃ! そのあと!」

「世界征服?」

「!!!!!!!!!」

驚きの表情で、突然立ちあがるルナ。

「どしたの?」

「そうじゃ!! 我は世界征服に来たんじゃよ!! この世界に!!」

めちゃくちゃ力説するルナ。


「山パンで精神と時の部屋を体験するわけでも、ぼろい平屋でアンデッドと談笑するために来たわけでもないわい!!!」

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