第9話「幼女に迫るポリ公の魔の手! ルナは逃げ切ることができるのかの巻⑤」
堵々子の夢発言に、警察官は困惑している。
「いや、夢ってそんな……」
「まあ、こういう時はあれだよ。自分のほっぺつねるとわかるんだろ? 夢でそういうことできたことないけど」
「はぁ、本官もないですね」
「だよね~。まあ、これでほっぺつねって痛くないなら夢でしょ?」
そういって堵々子は自分のほっぺをつねる。
「ほら、全然痛くないよ! すご~、夢って本当に痛くないんだね~」
堵々子はアンデッドなので痛覚がないのは当たり前である。
「そんなはずは……ちょっと試してみますね……いたた! ほら、私の方は痛いですもん!」
釣られて試した警察官は、しっかり頬が痛くて抗議する。
「いや! 絶対夢だね! だってこぉぉぉんなに、引っ張っても全然いふぁくないもん」
そういって堵々子は、自身の頬を全力で引っ張る。
痛覚がないことによる加減のなさによって、引っ張られることによって頬がミチミチと嫌な音を立てる。
「ちょ、ちょ! 安西さん、やりすぎですって!」
「ふぁいじょうぶ、ふぁいじょうぶ! これ夢ふぁから――」
そういってさらに力を込めると、堵々子の頬より先に、首の方が限界を迎えた。
堵々子の首はスポーンと、勢いよく取れてしまい頬をつねられたままプラプラと揺れている。
「あれ? 取れちまった」
「ひ、ひぁぁぁぁぁあああっぁあ!?」
悲鳴を上げて腰を抜かした警察官がそのままケツで後ずさる。
「ほらぁ~、警官さん。アタシが言った通りじゃないか! どう考えても夢だろ?」
そういって笑顔で警官に近づいていく堵々子。
その様は、完全にホラーである。
「あ、あ、あ、あうあああああああっ!!」
警察官は、四つん這いになりながら廊下を駆ける。
「あ、ちょっと!」
堵々子の静止も聞かず、警察官は玄関から逃げ出してしまった。
「あーあ。アタシの頭が作った警官にしちゃ、軟弱だねぇ。拳銃でも撃ってみてもらおうと思ったのに」
物騒な感想を述べる堵々子。
「それにしても……いい女になったねぇアタシ」
頭を鷲づかみにして、自分の身体をしげしげと眺める。
その時、化粧台の鏡に自身の顔も映り込む。
「おお! これ……色は黒いけど若い時のアタシそのままじゃないか!」
白髪と土気色の肌を除けば、それは80年近く前の女学生だった自分そのものだった。
「はぁ~、若返る夢とは、こりゃ走馬灯とかいうのも混じってるのかもね~。寝たまま死んでたりして。あっはっはっは!」
「寝たまま死んどったわぁぁ!!!」
雄たけびを上げながら、ルナが布団を跳ね飛ばして起き上がる。
「うぇ! おうぇ……!!! くっさぁぁぁああ! おぇ……! おえええ!!」
布団をかけられたせいで、濃縮された自分のゲロと腐臭によってもがき苦しむルナ。
途中から目を覚ましていたのだが、警察官が出ていくまで腐った布団の中で隠れているしかなかったのだ。
「ああ、そういえばなんか知らない子が居たんだったね。というか、あんたら臭い臭い言い過ぎなんだよ! アタシみたいな、美人捕まえといて!」
「顔でカバーできる範囲超えとるじゃろうが!!」
「そうかい? 昔は2~3日穿いた下着くれ~とか、汗かいたまましたい~って、付き合った男や旦那は言ってたけどねぇ」
「え……そ、そうなのか? 臭い方がいいの? 人間ヤバ……」
戦慄するルナ。
「そういえば、あんた名前は? アタシもうだいぶ耄碌して覚えてないんだよ」
「よくぞ聞いてくれた! 我こそは、世界を征服した吸血鬼の女王『ヴァルミリオン・ルナ・ノクターナ』じゃ!」
「そんな外人の孫いたっけかな。高志のところはベトナムの嫁さんもらったって言ってたけど」
「孫じゃないわ! どっちかと言えば主じゃ!」
「主? うちの旦那はそんなちんちんくりんじゃないよ」
「そーいうことじゃない! おぬしを蘇られたのが我なの!! 敬って!!」
「へぇ、凝った夢だね~! アタシがこんなに空想好きだったとは自分でも知らんかったよ!」
「んが~! 話が通じんんんん!!!」
ダンダンと地団太を踏むルナ。
「まあ、よくわかんないけど、夢が覚めるまでよろしく頼むよ。ルナちゃん」
こうして、ルナと堵々子は巡り会ったのだった。
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