第8話 「幼女に迫るポリ公の魔の手! ルナは逃げ切ることができるのかの巻④」

ルナが気を失ったすぐ後、もぞもぞと布団が動き死体だったはずの家主『安西 堵々子』がむっくりと起き上がった。

「…………んん? あれ、今日はえらくスッキリ目が覚めるね!」

不思議に思ったが、まず自分の身体の軽さに気づいて肩を回す。

「おお!? それに身体の調子がすこぶるいい!」

喜んでさらに肩を回すとベシッ! と何かに手が当たる。

「ん……あれ? 誰だいこれ」

そこには口から泡とゲロと血を攪拌したものを垂れ流して、白目をむいたルナが横たわっていた。

「ん~……? ホントに誰?」

堵々子は、自身が後期高齢者であることを自覚しており、恐らく知り合いだろうと見当をつけ、ルナの顔をじっくり見る。


「う~ん……アタシもボケたねぇ。全然思い出せないわ」

しかし、元々知らない人なので思い出せるはずもない。

「まあいいか。たぶん孫か何かだろ。ほれ、風邪引くよ」

細かいことを気にしない江戸っ子気質の堵々子は、そう解釈して自身の布団を雑にルナの身体にかけてやる。


するとそこへ警察官が入ってきた。

「安西さ~ん、大丈夫ですか~……ってくっさ!」

「ちょいと! 人の家勝手に上がり込んで、一言目に臭いってあんたどーいうこと!?」

怒る堵々子。それに驚く警察官。

「え!? いらっしゃったんですか!? いや……あの私、こういう者でして……」

警察官が手帳を見せる。

「警察? 何、どうしたんだい?」

「いえ……安西さんのお宅からその……匂いがですね……」

「匂いって……ああ、ごめんごめん。アタシ近頃は動くのが大変でさぁ。2週間とか……もっと? まあ覚えてないけど、しばらくお風呂入ってなくてねぇ。そういえば、食器なんかもずっと洗ってないし」

堵々子はそう言って自分語りをするが、警察官はそういうことじゃなくて……という顔。

警察官は腐臭の話をして、堵々子は独居老人の生活の乱れの話をしており、二人の会話はかみ合っていない。

しかし、人がいるとわかり警察官の方が話を合わせる。


「え……あ、いやそうですか。それであの……一人暮らしですか? 親御さんとかは……」

さらに意味のわからない質問に堵々子は大笑い。

「あっはっはっは! 警官さん面白いこと言うね! 親なんかとっくに死んでるよ! 見りゃわかるだろ~」

「えっと……あ、申し訳ないです。まだお若いのに……」

「ぎゃははははははっ! いやいやいや! 警官さん! 若いってあんた、お世辞にしたって、無理があるよ!」

「え?」

「えっ、って! いや、だってこんなババアに、そんなこと言ってどうするんだい。そもそもアタシの親が生きてるわけないだろ、もし生きてりゃ130とかだよ」

「??? えっと、君は高校生か、大学生くらいでは……?」

「はぁ~? こんな腰の曲がったよぼよぼのババアに何を……」

と言いつつ自分の足元を見ると、二本の足でシャンと立っている。

腕は土気色だが、シワはなくまるで昔の自分のようだ。

さらに決定的なのは干しブドウのようだったおっぱいが、大昔にそこらの男どもを虜にし続けていた、はち切れんばかりの巨乳えと復活を遂げていたのだ。


「…………なるほど。こりゃあ、夢だね!」

堵々子は、自分の身体を見て合理的な判断を下した。

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