1杯目 謝れない同僚と納豆ご飯(2/3)

「おいおい、どうなってるんだよ!」


 鼻息荒く寄ってきたのは、営業の勝田だった。

確か少し年上で、いつも上から目線で、調子のいいことばっかり言うやつ。


 まとめると、私が嫌いな男だ。

こいつの元にも顧客から電話が来たのだろう、偉い剣幕だ。


 ……まあ、知ったこっちゃない。

こんな感情を正面から受け止め続けたらこっちが潰れちゃうわ。

私が潰れたらあと誰がやるのよ。

受け流して仕事してるだけでも感謝して欲しいくらいだわ。


 頭の中でぶつぶつと呟いていると、そんな様子を知ってか知らずか勝田が捲し立ててくる。


「丹波興業のWEBサイトが見えないってマジかよ! 勘弁してくれよ!」

「本当です。今調査してるところです」

「今日、システムリリースしてるのにトラブルとかやめてくれよ、マジでさあ」


 勝田の発言が引っかかり、友部と顔を見合わせる。

システムリリースがあるという情報は聞いていない。

スッと横目で端末のメンテナンスカレンダーも見るが、特にそんな予定は確認できない。


 嫌な予感しかしないが、勝田に確認する。


「システムリリース? なんですそれ?」

「丹波興業のWEBサイトに新機能追加するんだよ。アプリ開発会社に作業させてるんだ。早く直してくれよな」

「聞いてないんですけど」

「言ってなかったっけ? 今そんな確認してる場合じゃないだろ! とにかく早く直せよな」

「聞いてないですよ?」


 言った瞬間に丹波興業のWEBサイトが再び見えるようになった。

私も友部も何もしていない。

話している間、キーボードにすら触れていない。


 ただ、端末に表示されているシステム状態は再び正常な状況に戻っており、監視システム上で障害発生を知らせる赤い警告マークも消えて緑に戻っていった。


 モニターに映る状況は、システムが復旧したことを伝えている。

その様子を見て能天気に勝田が声をかける。


「お、治った?」

「……みたいですね」

「全く、しっかりしてくれよな。顧客報告しなきゃいけないから原因わかったら報告書よろしく」

「……リリース作業じゃないですかね」

「はあ?」


 ポカンとする勝田。

なんでそんなに偉そうにできるの?

バカなの?


 内心はさておき、笑顔で話しかける。

よっ、社会人の鑑。

大人な女。


「リリース作業でアプリ開発会社がシステム落として、起動し直しただけじゃないですかね?」

「どういうことだ?」


 本気でわからないのかな?


 ……ああ、ダメダメ。

こういうのは感情的になってはダメだ。

冷静に、落ち着いて、言わないと。


「意図的に、作業で、システム停止、させただけじゃ、ないですかね?」

「水戸さん、こええ」


 少し感情がもれていたらしいが、友部の発言は聞こえなかったことにする。

勝田は私の発言を聞いて、後ろを向くとスマートフォンを取り出してどこかに連絡する。


「もしもし、丹波興業システムのリリース作業順調ですか?」

「…………」

「ええ、はい、あのつかぬことを聞きますがサイト停止したりしましたか?」

「…………」

「作業工程通り? 事前の計画で案内済み? あー、ええ、わかりました」


 営業が電話を終えて、こちらを向く。

多少顔が引き攣っている様に見えるが、こちらとしてもこの件を片付けないといけない。

笑顔を崩さないように確認する。


「原因わかりましたか?」

「……システムリリース時の再起動だとさ」

「作業工程とか、事前の計画とか聞こえましたが」

「そんなこと言ってたか?」

「そんなものがあるなら、なぜこちらに届いてないんですかね?」

「ああ? 手違いがあったんだろ」


 しらばっくれる気だな。

十中八九、勝田が顧客やこちらに計画を共有忘れたんだろう。

誤魔化させるか。


「じゃあ、こちらからシステムリリース影響ということでお客さんに連絡して良いですか?」

「余計なことするな、俺から顧客に連絡する」


 あ、隠す気だ。

とっちめてやろうかとも思ったが、お客さんを待たせるのは良くない。

仕方がないので、残りの仕事を全部勝田にボール投げつけることにする。


「では、障害報告書と顧客報告はお任せして良いですか?」

「ああ? 報告書は作れよ。運用担当の仕事だろう。」

「素直に書きますけど良いですか?」

「わかったよ、たくふざけやがって。……これだから女は嫌なんだよ」


 捨て台詞と共に去っていく勝田。

はあ、腹立てる気にもならん。

呆れていると友部が声をかけてくる。


「水戸さん、お疲れっす。勝田さん最後まで謝んなかったっすね……すげえメンタル」

「まったくね、あーいうのとは仕事したくないわ」

「捨て台詞も昭和なセンスっすね。笑いそうになりました」

「同感。友部君、塩撒いといて」

「掃除するのめんどいんで、いやっす」


 バカな話をしながらもお互いに手を動かして後処理を行う。

顧客報告を首尾よく押し返しても、他にもやらなければならないことはたくさんあるのだ。


 前言撤回、やっぱりムカつく。

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