第5話 シャーク
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「申し訳ございません」
「いいえ〜、手伝ってくれてありがとうね〜。ところで?」
「…はい?」
プニカ様が突然私に抱きついて来た。胸がデカ過ぎて息が苦しい。
「何で私の事はリュリーみたいに『プニカ姉』〜って呼んでくれないのかしら〜?? 大変に不服だわ〜」
「え、いや…そんな不敬な事は出来な…」
「あらあら、謙遜のし過ぎだってある意味では不敬な行いだと思うわよ?」
「しかし、プニカ様にそのような…」
魔法の世界に於いてその名を知らぬ者はいない、『超越者』『緋色を纏う真理』と敬われるこの方にそんな軽々しい呼び方をするなど畏れ多すぎる。
「お・ね・が・い〜」
「…か、考えておきます」
このお方にはもう少しご自分の偉大さというものを以て立居振る舞いを再考して頂きたい。あまり親しみやすく接されると逆に心苦しくなってしまう…助けて、リュリー姉…
「上手な躱し方ね〜、関心関心♪」
「…恐縮です」
「も〜〜〜!! どうして最近の子は皆育ちが良いのかしら!! これも少し考えものね〜、リュリーにもチョコっとは見習って欲しいわ」
「…では、そろそろ失礼致します。帝国への報告は御意のままに」
「助かるわ〜、また会いましょう。
ティアナ」
「はい、是非に」
「その時は『プニカ姉』って呼んでくれるわよね? バイバイ〜」
「アッハハハ…はぁ」
プニカ様には魔法に関する知識などを教授して欲しいところだが、他愛無い雑談や恋バナなどに花を咲かせる方を好まれる。本当に魔法の真理に辿り着いた方とは俄かには信じられない。
「…要人暗殺の実行犯を取り逃してしまったし、悩みの種は1つ増えたし、ヤらしい男にヤらしい視線を向けられるし…最悪」
プニカ様の手伝いは大変勉強になったが、リュリー姉に叱られるかもしれない不安の方が今はデカい。
「…しかし、どんなお偉いさんが殺されたんだろう?」
ここ数ヶ月の間に軍部内で要人警護や国賓来訪の知らせも特務も出ていない。私にも内緒という事は。
「アルザ…陛下の企みかな」
————
「船旅って中々に面白いモノですね」
「嬢ちゃんは船酔いしねーのな…ウッ」
青い鯨が潮吹きしていらっしゃったり、イルカたちが空中で6回転する大技を楽しめたりと初めての船旅は初めての景色に満ち満ちていて、人生とはなんと素晴らしいモノなのかしら! と4回程体感致しました。
「シェフ様、ホアンツァはどうしてあれ程に船着場の端で四つん這いになっていらっしゃるの?」
シェフ様の
「船酔いだよ、船酔い」
「フナヨイ?」
「波の揺れる感覚で気持ち悪くなっちまうのさ」
「ほぉ〜! ホアンツァは面白い体質の持ち主なのですね」
波の揺れる感覚で気持ち悪くなってしまわれるのに船に乗らなければならないなんて、フフ。
「前世でどんな悪行を犯したら、そんな愉快な身体になれるのかしら」
「…意外と天然?」
「全員集合」
モノム様の号令で馬車がうんと待機されてる場所の前へと集まる。武装は纏めて荷台に積み上げられ、『S. C. 』と白い紋章の施された赤い木の馬車に乗り込む様に促される。
「腰掛けがフカフカですわ〜!!」
「ウチの会社はこのご時世で儲かっているからね」
隣にバクラン様が掛けられ、私の正面にモノム様が足を広くして掛けられた。
「会社?」
「S. C. とあったろう? 『シャーク・カンパニー』という軍事会社で、ウチの部隊もここに所属している」
「しゃーく?」
「…サメの事だ。知らないか?」
「皆目見当も」
「ボスを見たら意味が分かる」
「はぁ」
サメとは一体どの様な意味の言葉なのでしょうか? 名前は短くて強そうですし、この世界の武器か武装の一種辺りではないでしょうか!
「〜〜〜♪」
「いい歌だね、故郷の曲かい?」
「えぇ、御祖母様がよく歌っていらしたのです」
「初めて聞く曲だ。
何処の出身なんだ? ロサリア」
「オプティライミ公国プライム領の出身ですわ」
私が出自を告げると、御二方はぐっと閉口されて見つめ合われた。
「オプティライミ公国…」
「プライム領…」
「はい、どうかされまして?」
突然、バクラン様が私の頭を調べるように撫で回されて、こしょばいですわ! 一方のモノム様は顎に手を当てて考え込んでいらっしゃる。何なんですの!?
「大丈夫かい? 合流までに頭を強く打ったのかな、あまり強く打っていないといいんだけど…」
「頭は打っておりませんわよ!?」
「ルナメアールの歴史の中でもオプティライミという名は聞いた事がない…」
「ルナメアール!? パンゲニア大陸ではございませんの!?」
私もルナメアールなる土地は生まれて1度もその名を聞いた事がありません。何処か異国の地に飛ばされたのかと思っておりましたけれど、まさか。
「遥か昔、まだルナメアールにエルフやドワーフがいた頃。未知の文字を繰り、『魔法』という技術を伝え教えた人物がいた。『メル』という名の人物で、錬金術師という未知の学問の探求者だったと云われている」
「メル…?」
何故か二刀流のベネチアンマスクを被った男が脳裏をよぎったのですが、何なんですの?
「その人物はこことは違う異世界から来たという事だったそうだ」
「なるほど、畢竟私も全くの異世界に突如転移してしまったという事ですわね!」
此処はパンゲニアの海洋都市でもなければ、地獄涅槃の様な彼岸でもないのですって。
「不思議な事もございますのね〜」
「軽いねー」
「全くだ」
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