第20話 地雷原(短編賞応募作品2)
かんかん照りの大気すら歪む熱気。吹き出る汗はいつまで経っても止まない。
仕事とは言え果てしなく運がないと溜息が出る。
景色を楽しみ紛らわそうとも一面の黄土色地帯であるこの場所には風情も糞もない。
背負った重い荷物といい本当に辟易とする。
……まぁくじ引きで負けたのだから口を噤むべきなんだろうが、いかんせん嫌らしく永遠と肌を焼くコレには一つくらい文句も言いたくなるだろう。
そうこう思いつつも俺は歩みを続ける。
何故なら誰かがやらなければならない事だから。
陽射しが丁度真上に向いた頃、俺は目的地の側にまで辿り着いたが……。
「人……?」
閑散とした大地に一つの点が。
険しい顔をしたまま仁王立ちする薄汚れた服装の男。
焼き慣れた浅黒い肌からこの地域の原住民であると推察出来る。
弱ったな。そう思いながら俺は声がギリギリ届くであろう所まで寄る。
「こんにちは! 此処で何をしているのですか!」
大声で語りかける。
寝癖の如くボサボサな髪を振り、男は俺に目を向けた。
「大地が……俺を呼んでいるのだ」
聞こえ辛かったがそう喋った。
暑さに頭をやられたかと俺は危険性が無いと判断して男に近付く。
「この辺りは立ち入り禁止区域に指定されています。直ちに退去を」
「大地がこの場へ留まれと言っている」
「はぁ。そうですか」
超自然的な感覚に頼って生きる彼等はどうにも扱い辛い。
面倒だなと俺は目を下に落とすと薄らと姿を見せる埋没物。
まさかと思いつつもしゃがんで軽く土を払う。
「地雷……」
対戦車用の物だ。これは長らく使われていない物が残っていたのだろう。
恐らく彼はその感触に気付いたからこそ足を止めたのだ。
「踏んでしまったのか。でも人の体重程度では作動しない筈」
確か150kg程の重量を感知して爆裂する仕組みだ。
痩せていて三分の一にも満たないであろうこの人物では届かない。
では何故彼が動かないのか?。きっと地雷という一つの括りで見て種別の知識が無いのだ。
俺が来なければこのまま乾涸びていただろうな。
「大地が……」
「それはいいから。この地雷は爆発しないので退いてくれ」
「……君は何の為に現れた」
「仕事なんだよ」
「私は大地の化身。此処に止まるのが私の仕事なのだ」
頭が可笑しくなっているのか、埒が明かない。
あぁ、糞。この暑さなら仕方ないよな。本当に苛々する——。
……いや待てよ。良い事思い付いたぞ。
俺は一つ咳を吐き喉を整える。
「君が大地の化身というのは分かった。しかし俺の仕事の方が上位である」
「何故だ?」
「あれを見よ」
俺は空に浮かぶ太陽を指差した。
「俺は太陽の化身。水分を含まない地面の砂の有り様は正に此方を上とするものだ」
そこらの乾いた砂を持ち上げ彼の目の前で見せた。
吹き荒ぶ風で消え去る掌の物に、目を大きく見開いて狼狽している。
「おぉぉ……そうか……」
その言葉を放って静かに彼は足を退けた。
頭では分かっていても少し緊張したが、地雷はうんともすんとも言わない。
緊張に次ぐ緊張の連続だ。
「大地の化身である君の仕事は私が引き継ごう。後は任せたまえ」
「相分かった……。大地の化身、太陽の化身よ。不甲斐無い私を許してくれ……」
そうして彼は静かにこの場から立ち去って行った。
やれやれ、やっと仕事が始められる。
「さて、埋めないとな。……気付かれなくて良かった」
俺は背負ったバッグを地面に下ろす。
そして中を開きたんまりと詰まった爆破型の対人地雷は陽に輝いた。
自国の者とは言え、もし見つかったらと思うと冷や汗が流れるよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます