第18話 無意味な予知夢
「親父おかえり」
「…………」
玄関から足早に居間へ現れた親父の表情は、眉間に皺が寄り明らかな不機嫌を表に出した物だった。
あぁ、いつものか。俺はその様子にそう思った。
「またか?」
「まただよ」
そうしてため息を吐き風呂場へ向かう。
俺にしてみればその様子にもう慣れたが、親父からしてみればそうでないらしい。
昔から親父は予知夢とやらをよく見ている。
別に大事件や災難の予兆が来るという訳でもなく、出向先の職場でゴミを出す場面や新しい靴を買い足す場面等の日常的な一部分を切り取った物。
夢を見たその日はメモ帳に詳細に書き記していて、その中の幾つかは家族と関係ある事柄で確かに当たっていた。
役に立たないのなら確かに苛立つ気持ちも理解出来る。
しかし親父の怒りの矛先はそこではないらしい。
決まったレールから外れていけない感覚。
これがとても我慢がならないらしい。
その夢の風景と現実が合致してやっとその事に気付く。
メモをしていてもその場では何故かド忘れしてしまうのだそうだ。
俺にはそう言った力は遺伝していない。
持たない者にとっては羨ましい所もあるのだが……。
その様に考えていると首にタオルを掛けパンツ一丁の姿のまま親父が風呂から上がって来た。
その時俺はふと疑問が浮かぶ。
「なぁ親父」
「何だ?」
「役に立った予知夢とか見た事ないの?」
飽き飽きしている姿の親父しか知らないので、この事を一つ訊いてみた。
親父は顎に手を当て天井に目を向ける。
そして「うーん」と唸るまま暫く考えていると、突然ハッと思い付いた顔をする。
「確かお前が産まれる前に……」
そう言って後の言葉は噤んだ。
「俺が産まれる前になんだよ」
「いや、忘れろ」
そう言ってそそくさと二階の自室に逃げようとする親父の後を追う。
「教えてくれよ親父」
俺は諦めるものかと粘り強く声を掛けて、根負けしたのか階段の途中で親父は足を止めた。
「……まぁ、あれだ。先に顔知っていたってだけだ」
親父は振り向く事なく言った。
そしてまた歩き出す。
今度は俺が唸りを上げて頭をこねくり回す。
「それが黙る程の事か……?」
よく分からない親父の行動。
これも毎度の事ながら、謎を残すその振る舞いに俺は慣れない。
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