第11話 灯籠流し
一年の中に於いてお盆の時期には先祖供養の意味を込めた灯籠流しという行事が行われる所がある。
河川への汚染を鑑みてそれらは下流で回収される事は当然なのだが、ある地域では寧ろそちらが本命となっていた。
『流された灯籠、一つの欠けもなく回収すべし。出来ぬなら流さず』
この言葉が長く伝えられているほど、集める事を主軸としていた。
その地域の河川は昔から鬼の住む村と繋がっているとされていた。
流した灯籠がその鬼の領域に行ってしまうと先祖の魂が喰われると信じられていたのだ。
そしてもし喰われたならば血脈の匂いを覚え、子孫に害を成す為に人の集落へ姿を現すそうだ。
族食いと呼称される鬼側の行事。一時は灯籠流し自体を禁止にしていたが、それでも染みついた慣習である為人々の要望により再開せざるを得なかった。
そんな事情もあり灯籠の回収に関して人一倍の注意を払っていたが、それでもある年のお盆の時期にして灯籠が流した物と集めた物で数が合わない事態に陥った。
大慌てで川を捜索するも影も形もない。
不明となった灯籠の流し主も参加した者も皆一様に恐怖する最中、数日後失くした者の娘が忽然と姿を消し行方不明となる。
始まったと騒ぐ中で更に息子、父親と次々に痕跡も残さず消えて行く。
だが数日後唐突に三人は帰って来た。
何でも灯籠を探していたら山の中で迷ってしまったとの事で、怪我も無く元気な様子にあの言い伝えは嘘だったのだと皆喜んだ。
それから次の年まで問題は起きず、また灯籠流しの時期に差し掛かり今年はどうするかの話となって、一応これも長く続けて来たからと回収の決まりも守る事となる。
今度は流した物の数が一つ多かった。
確実にこれが増えたのだと言い切れる灯籠があった。
血文字で「返して」と書かれた古ぼけた灯籠が。
物々しく、また荒々しい文字に鬼の何を奪ってしまったのかと頭を悩ませたが結局答えは出ない。
そんな中でこの地域の殆どの人間が姿を消す事件が起きた。
ただこれもやはり数日で戻って来る。
全員が全員何故神隠しの様に居なくなったのか誰も覚えていない。
灯籠流しの行事は今年を限りを持って中止にした方がいいだろう。
この事件を皮切りにしてそんな意見が上がり反対意見も無くその案は通る事となった。
翌年からはお盆を過ぎても人が消えない。
これで終わったのだと喜んだが、ただ一つ奇妙な出来事が頻発する様になった。
その川に立ち寄ると複数の声色で「返して」と耳元で囁かれるのだ。
気味の悪さからその河川に近づく者は居なくなるのだった。
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