第10話 陸海老海蜘蛛



「なぁ、アンタ。最近陸海老っつうもんが流行ってるらしいじゃねぇか」


「あん? コオロギだろ。それがどうかしたか?」


 炬燵の中で初老の男がそう相槌を打つ。

 数枚の開いたみかんの皮がカピカピに乾燥する暖かな室内の中で、切り出した男は不思議そうな表情を浮かべている。


「いやな、だとするなら海蜘蛛と言い換えた時にゃは蟹だろ?」


「そうだな蜘蛛っぽいもんな」


 また急に訳のわからん事を言い出したと空返事に言葉を紡ぐ。

 リモコンを持ち番組を回すとこれまた海の広がるニュースに要らん縁だと思う。


「陸イルカが馬。陸アザラシが犬。海ゾウがクジラ。海チーターがマグロ。こうやって逆さに考えたらよ、海人間って何なんだろうと思ったんだよ」


 男は考えながら一つ一つを口に出しもはや虫の類から外れてるじゃねーかとも考えたが、海人間というフレーズが頭に残る。


「海人間……うーん」


 そう言われてみればこの対義語に当て嵌るものは思い付かない。

 ウンウン唸っているとふとテレビに映った光景が目に留まりこれだと閃いた。


「アレしかないだろうな」


 その指差す方向を相手も見つめて「成程」の一言と感嘆の息を漏らした。

 確かにこれをおいて海人間と呼称出来る物はない。

 二人は笑いながら他の国から発射されたミサイルが我が国の領海へ落下したと発表する様子を眺めるのだった。

 


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