第7話 正しく勇者

 ある日男はトラックに轢かれ亡くなった。

 次に目を覚ますと光だけが広がる空間の中で、何者かの声だけが響く。


「と、いう訳で貴方は私達の手違いにより命を落としてしまったのです」

 死ぬべき人物を間違えてその運命が男に降りかかったのである。


「マジですか……でもその流れという事は」

 男は驚きはしたが怒りも悲しみも無く、むしろそれに続く光の主の言葉を想像して喜びが湧いていた。


「ええ。何か願いがあればお詫びに叶えて差し上げます。それこそ望んでいる異世界転生とか」

 よっしゃあと男は心の中でガッツポーズを浮かべる。

 遂に俺にもそのチャンスが来たのだと身が震える思いだった。


「勇者として転生出来ますか?」

「勇者……出来ますが大変ですよ」

「構いません! よろしくお願いします!」

 そんな事百も承知と男は納得しているが光の主はあまり気が進まない様子。


「そこまで言うのなら叶えますが……後悔しないで下さいね」

 そう言い残して男は次の世界へと転生するのでした。


 生まれ変わった世界で勇者はすくすくと育っていき、その勇ましき活躍には周囲の羨望を集めんばかりであった。

 しかしその表情はいつも影が差している。

 

『はい、そこ曲がって壺割って』

「はい」

 今日も始まったと勇者は壺を割る。


『箪笥開けてアイテムゲットして』

「はい……」

 別の日では勇者は箪笥を開き薄汚れた柄の入ったパンツを仕舞う。


『ここで経験値稼ぐのは効率悪いから次の街まで我慢して』

「…………」

 レベルの低さに苦戦しつつも、脳に直接送られ続けるその指示に従うのだ。


 言われるがままに逆らえない。

 まるで操り人形である勇者は魔王を降しても生涯振り回されて行きました。


「だから大変だと釘を刺したのに」

 その様子にポツンと光の主は言葉を残すのでした。

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