第5話 蛙の恩返し

 道路すら陥没した大雨が過ぎ去ってはや一日。

 やっとこさ外に出られると散歩の最中、窪みに出来た水溜りの中でカエルの卵が渦を巻いていたのを見かける。

 地滑りすら危惧するあの嵐でよう産むもんだ。

 このまま乾いてしまえば卵は枯れてしまう。何故かそれが無性に物悲しく感じた。

 家からバケツを持って来て回収し、それを近くの川に移してやると卵は呑気に揺れていて、元気でやれよと声を掛けその場を後にした。


 それから暫くしてこの辺りの地域で蝗害が発生したとの報せが入った。

 稲も穂を下ろし始めた矢先になんて事だと、焼け石に水となるのが目に見えながらも水田の周りに囲いを建てる。

 神などはいない。だからこそ出来る事を自分達でやるのだ。

 そんな心持ちで到来を今か今かと待っていると、これがいつまで経っても羽音すらしない。

 どうした事かと疑問に思っていたら今度は蛙が大量発生したとの報せが入った。

 それに追われて飛蝗共は食い尽くされてしまったのだと。

 ……あちらが立てばこちらが立たぬとはよく言ったものだ。

 



 

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