第4話 妖刀請負人
つい先日祖父さんが亡くなった。
遺品の整理に駆り出されて蔵を漁っていると紫色の布に包まれた細長い物が隅の方に置かれていた。
異様なのは虫の食った古いお札が所々貼られている所。
これは間違いなく何かあると祖母さんに尋ねるとそういえば昔に曰くのある刀を預かったとかなんとか。という話を聞けた。
親戚一同集めて話し合いを設け、これをどうするかを議題に進めていく。
ある者は神社か寺に預けよう。ある者はそんなの迷信だ売ってしまおう。そしてある者は産業廃棄物として捨ててしまおう等様々な意見が上がった。
そんな中一人の叔父さんがこういう物を欲しがるやつを知っているからそいつにやりたいと言い出した。
どれもこれも手続きが面倒なので、欲しいというなら上げてしまうのが楽ではないか。
結局はそういう流れで話は進んだ。
そして引き渡しの日に例の人が現れ、随分と若い20代そこらの兄ちゃんでキチンと管理出来るのだろうかと不安になった。
訝しみながらもその刀を手渡すと急に札を剥がし始め巻かれた布も取っ払う。
俺も親戚一同も呆気に取られていると中から出て来たのは抜き身の一本の刀であった。
長年放置されているのにも関わらず、その鋼は凛と鏡の様な質感を保っていた。
これは本物だ。そう誰もがまやかしを信じるに値する雰囲気があった。
そして飲まれる中男が叫ぶ。「妖刀一本勝負!!!」
その気迫に更に圧倒されると、男は刀を握って昔から家で管理しているそこそこ大きな柿の木に近付いた。
そして大きく振りかぶって叩き付ける。
甲高く清涼感のある金属音が鳴り響いて……祖父さんの遺品の刀は中心から真っ二つに折れていた。
「なまくらかよ。ゴミだなゴミ」そう言ってすっ飛んだもう半分を回収して包み直して俺に返した。
「もう忌みは無いし、鉄自体は良い物だから包丁として加工してもらうのを進める」
最後にそう言い残して型落ち軽自動車のエンジンを吹かせてこの場を去って行った。
一体なんだったのか疑問は尽きない。全員口が空いたままだった。
だけどそれからというものこの刀を見付けてから暗い雰囲気だった家は妙に明るさを取り戻した様な気がした。
刀を渡したいと言った叔父さんは当初謝っていたが、この変わり様にあれで良かったのかもしれないと最近は考えを改めている。
当の折れた刀はというと、言われた通りに包丁に加工して頂いた。
上側をペティナイフに下側を少し短めな刺身包丁に。
どっちも使い易くて重宝している。
分からない事だらけだがまぁこれで良いか。知らぬは仏とも言うし。そう野菜を切りつつ思うのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます