第34話 アデリーナ計画

 一時間前、ラヴァンダ城。情報監視室。


 「第六、第五、第四拠点の制圧を完了しました。周囲の『炎の暁』は拠点に用意されていた転移魔法により、逃げられましたが魔法反応がないことから一度きりのと思われます」「第三、第二拠点に部隊は苦戦を強いられている様です」「第一拠点に味方部隊が一人の赤騎士によって全滅しました!」


 それぞれの報告に耳を傾けるブルーは静かに命令を下す。


「城の守りに割いている衛兵を子どもたちの保護に回して。第六、第五、第四、拠点に戻ってくることはないから、準備を整え次第第三拠点から順番に制圧して」


 ブルーは情報監視室を出てから王室に向かった。王室の扉はまるでブルーが来ることを始めから分かっていたように勝手に開く。


 中に入ると、中央に置かれる一つのテーブルと二つの椅子、更にその奥で女王陛下が窓の外に広がる戦場を見ていた。女王陛下が作った綺麗な町は『炎の暁』とドラゴンによって破壊されていく。


 相変わらず兜をはずす事はないブルーは静かに敬礼していた。


「女王陛下、作戦は順調です」


 窓の前に立つ女王陛下は振り返るとブルーに向かって微笑みかける。


「何度も言っているけど、シルビアでよいのですよ?」


 かたくなに名前で呼ばないブルーに歩み寄るシルビア。


 その時。


 シルビアは急に意識をなくしたかのように倒れ込む。


「女王陛下!」


 急いで駆け寄るブルーはそっと女王陛下の肩に手を乗せた。すぐに意識を取り戻した女王陛下が苦笑いをブルーに見せながら、体を宙に浮かし氷で作り出した椅子に座る。


「ごめんなさい。もう心配はいりません。さあ、座りなさい」


 ブルーは言われるがまま席に座りシルビア様の言葉を待つ。


「アデリーナ計画は予定通り実行する」


 どうなるか分からない前代未聞の計画。このために今まで準備をしてきた女王陛下とブルーに取ってこの計画の成功は新たな希望だった。


 この世界に存在する絶対に破れない決まり、強力な力を持つ魔女と騎士だけに与えられる『誓約』。その『誓約』を一部破ることになるこの計画。


「本題はここから。例の白銀の鎧の彼女だけど、間違いなく本物だと断定できたわ。彼女が身に着けていた青い宝石のついたネックレス。あれは間違いなく私が作ったものよ。かすかに宝石から私の魔力を感じたの。だからよく聞いて、アデリーナ計画は未来で成功している。そして、未来の彼女は『誓約』の束縛を一部でも脱することができることを証明してくれた。彼らがそれを知っていたといても、彼らの言う『掟』がアデリーナの存在を縛ることができない。だから付け入る隙が生まれる、その瞬間を狙って欲しい」


 女王陛下はそこで一旦口を止め、窓を見て小さな声で独り言をつぶやいた。


「あの子はほんとにやさしくて甘い」


 過去を懐かしむようにやさしい表情を浮かべる女王陛下。それが炎の魔女に向けられたものだとブルーは知っていた。


 表情を変えた女王陛下はブルーの瞳を見つめ伝える。


「あくまでも計画は当初の予定通り進める。ブルーには好敵手の最古の騎士を殺すのではなく捕縛して貰うわ。できる?」

「何も心配はいりません」


 この国の最強の騎士ははっきりと言い切った。


「そう、頼もしいわね。それからアデリーナの事も仲間に引き入れることができるか試してみて、彼女の精神状態が現状どうなっているのか私達には何も分からない。私達が彼女に刃を向けてしまった事実、そしてこの国の地下で起こっている事実を彼女は素手に知ってしまっているけど、まだ利用できるかもしれない。私達は絶対に負けない、彼らのため、この世界のために、話は以上、急いで取り掛かりましょう」

「はい、女王陛下」


 席を立ち一礼するブルーはすぐに情報監視室に戻ろうとした時、城の地価が大きく揺れた。


 同時に城の明かりが消え、街に流れる魔力が途絶えるのを感じる。ブルーと女王陛下はすぐに何が起きたのか分かった。


  女王陛下とブルーは急いで王室を出て長く広い通路を走りながら話を続けた。


「やられたわね、最下邸の中核を破壊された。監視機は使い物にならないし、城の子どもたちがパニックを起こすわ。それに例の二人を見つけるのが難しくなる。」

「女王陛下。最下邸の中核を破壊できるのは炎狂の魔女か、最古の騎士のみです」

「まさか、アリーチェが?いえ、そんなはずないわ」


 ブルーは女王陛下の独り言を聞き流し、窓から見える外の景色に視線を向ける。そして、いつも通りの静かな物言いで女王陛下に言葉を継げる。


「まだ運はこちらについているみたいです」


 ブルーの目線の先に白と銀を基調とした一人の騎士の姿が映る。その姿を見た女王陛下はブルー頭に直接言葉を投げかけた。誰にも聞かれることはないその命令を理解したブルーは静かにうなずき行動を開始する。

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