第13話 最強の騎士-ブルー・デ・メルロ‐
「ブルー……」
心の中で読んだその名前が自然と口から零れ落ちる。
目の前の青騎士は少し肩をピクリと動かすと静かに剣を抜く。何度も見てき、打ち合ってきたブルーの愛剣だった。
突如、何の前触れもなく突進してくる。
ギリギリで受け止めるアデリーナの体はじりじりと少しずつ後ろに押されていく。
アデリーナの記憶の中にある唯一の親友に対しての気の迷いがアデリーナの剣を鈍らせる。アデリーナの剣は大きくはじかれ無防備な一瞬の隙をブルーの高速な三連撃が襲う。すぐに態勢を直し四連義気目をぎりぎりで防ぎ、鍔迫り合いにもつれ込む。
アデリーナの鎧に入ったひびが少しずつに修復されていくが後一撃食らっていれば間違いなく鎧は砕かれていた。
何とか押し戻そうと剣を両手で持ち直し力を込めるが片手で受け止めているブルーの剣はびくともしない。
散々打ち合ってきた経験があるが改めてこの国最強の騎士ブルーの強さを身に染みて実感させられる。
なぜ、両手を使ってアデリーナの剣をはじかないのか、そんな疑問から空いているブルーの片手へ目線を向けると手のひらが青く輝いていた。
「グラスメリジューヌ」
ブルーがそう囁いた。
——この鍔迫り合いをしている間に魔法を⁉
声にならない言葉を心の中で叫び大きく後ろに飛ぶ。
しかし間に合わない。数十本の蛇のような細い氷が空中にいるアデリーナの足に絡まりつき逃げられないように拘束される。そして、まだ残っている無数の氷が体をも飲み込もうと伸びてきていた。
まだ鎧も完全に修復できていないが魔力の出し惜しみなどしている場合ではない。アデリーナの剣に魔力が流れ真っ赤に染まる。魔力のこもった剣は輝きを放ち威力も速度も格段に増加する。
まずはこの束縛から逃れるため、足に絡まった氷を切り落とす。勢いよく振りかざされたアデリーナの剣がその氷を砕くことはなかった。アデリーナの斬撃をブルーのただの剣がはじく。
「魔力もなしで⁉」
驚きのあまり思わず口から声を漏らすアデリーナ。
空中へとあがり足場がなくて態勢も不安定なブルーの何も光っていない、魔力の籠っていない剣で簡単にはじかれる。
ブルーの攻撃がここで終わることはない。続けて鞭のようにしなる足がアデリーナの顔に横蹴りを繰り出した。その打撃は爆発音にも近い衝撃波を放ち兜を粉々に砕くと、そのまま地面へと叩き落とす。
地面にたたきつけられた衝撃により鎧まで砕け、アデリーナは頭からは流血する。
対するブルーは綺麗に地面へと着地すると、剣を青く輝かせ地面に倒れるアデリーナへと加速した。
次の攻撃が迫っていることを分かっていたアデリーナは無理やりに体を起こすが、下半身が思う様に動かせず、まだ上半身しか動かすことができない。それに、無理やりに動こうとした反動からが、物凄い吐き気が襲い吐血する。
頭の流血のせいかぼーっとする視界で真っ赤に染まる手を、そして次にその手の先に迫りくるブルーの青く輝く剣を見つめた。
流れる時間が遅く感じる。これが死を悟ったときの感覚。
この国の真実を知った矢先にこれ……ある意味自業自得ではあるけども、何もできなかった。くやしい。悲しい……。
アデリーナは静かに目を閉じた。
「烈氷」
中世的な声で静かに私の死刑を宣言する。
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