第12話 白銀の騎士

 剣を横に振ると同時に魔法陣と魔法機具を大爆発が襲い炎が一気に溢れ出す。しかし、どれも見えない壁に膝かれると同時にそこらじゅうでサイレンが響き渡った。


 少しするとガシャガシャと鎧が擦れる音がそこらじゅうからこだましてジュリオとアデリーナの元に届く。簡単に見積もっても50近くの重騎士が迫ってきているのは明らかだった。


「許せない!」


 氷の魔女の魔法障壁に阻まれたアデリーナの攻撃は、一切傷をつけることができなかった。


「おっけー、だけどその前にまず俺を守ってくれ」


 ジュリオがアデリーナの手を強引に引っ張って走り始めた。


「どこに行くのですか!」

「俺は戦えないから逃げるんだよ!」


 逃げる先にも数人の兵士がいたが数は少ない。アデリーナの火焔が一瞬で目の前の敵を屠り先を急ぐ。この状況を招いてしまった自分の失態と、騎士として目の前で苦しんでいる沢山の人々を助けられない、そして何よりもこんな事を何も知らずに生きていた自分に余計に腹がったった。ブルーはこのことを知っているの?そんな問いを抱くがその答えはどこにもない。


 ただ無力に逃げる事しかできない自分の愚かさが残るだけだった。


「くそっ‼」


 アデリーナはただ逃げるしかできない。何もできなかった現状に苛立ち騎士からぬ言動で吐き捨てた。


 何とか追っ手をまくことができた二人はもう一度フードを深くかぶり別ルートの入り口から地上へと出れた。


 ここは西西南にある第七区商店街エリア。少し大通りと離れているが人気が少ないことに越した事はない。


 アデリーナが兜を外すとその綺麗な薄ピンクの髪と綺麗な美貌が現れ二人の間で流れていた緊張がいくらか和む。


「はあ、何とか逃げ切れたな。ありがとう……それにしても強いぜ、強い強いとは聞いていたがこれほど強いとはな。頼りになるよ、本当に」

「ありがとうございます、しかし、こんな事態にしてしまって申し訳ありません。私の至らなさが招いた結果です」

「何言ってんだよ、無事切り抜けられたんだからいいじゃん。むしろあそこで怒ってくれた姿の方に俺は嬉しかったよ」


 少し前を歩いていたジュリオは笑いながら言った。しかし、アデリーナは現状に違和感を覚えており空返事を返す。


 いくら人気がないからと言っても不自然に静かだった。嫌な予感がしたアデリーナはすぐに兜を戻すと鞘に手をかけ、横にある大通りへと延びる少し広めの通路を見つめる。


「なにを」

「あなたは隠れていてください、そして隙を見て逃げて!」


 間髪入れず答えるアデリーナから緊張感が伝わったのかジュリオはすぐに物陰へと隠れた。


 アデリーナの前に通りからカシャカシャと鎧の音が聞こえる、最低でも十人はいる。恐らく包囲されているだろう。


 正面に姿を現した四人の青騎士たちが大盾を構えまっすぐとアデリーナに対し臨戦態勢を示す。


 アデリーナもまた羽織っていた赤フードを消し白と銀色の鎧の姿をあらわにする。


 炎の暁の兵士たちは皆、赤を基調にした装備を身に纏っているためアデリーナはいつも異彩を放っていた。しかしその異彩は青騎士たちにも伝わったのか後ずさる。今まで赤い鎧の騎士たちばかりと戦っていた青騎士たちにとってこの鎧は異質に感じるのだろう。


 白色の鞘から銀色の剣を真っ赤に燃やす。


「火焔龍破」


 炎の竜巻が四枚の大盾を襲うが一歩また一歩と前進する。


 噴出される炎に身を乗せ、アデリーナは前に飛び掛かると勢いのまま体を捻り水平切りを切り出す。大盾が大きくのけぞり堅い守りが崩れるその隙をアデリーナは逃さない。


 片手を開いた盾の隙間に無理やりにねじ込み手を開く。青騎士はアデリーナの腕を逃がさまいとより強い力で大盾と閉じる。そして同時に逃げることのできなくなったアデリーナの体を敵の槍が襲う。


 大盾にかける力を抜けない青騎士の攻撃ならば鎧が守ってくれると計算していたアデリーナの予想通り魔法の発動時間まで鎧が削れる事はなかった。


「エスプ・ジオーネ」


 開いていた手のひらから爆発が起き、ほぼゼロ距離で食らった四人の青騎士が後ろへと吹き飛ばされ地面を引きずる。


 大盾を亡くした四人の青騎士に追撃すべく飛び出したアデリーナの前に左右から槍が飛来する。蹴り出した勢いをそのまま剣に乗せ回し斬りでその攻撃を何とかはじくが、追撃のために飛び出したアデリーナの足を止められてしまう。更に、二人の衛兵が槍を持って飛び出してきた。


 動きは遅く、完全に素人で大した脅威はないがアデリーナの追撃を止めるには十分だった。


 片方の槍を剣で受け流しもう片方の槍は片手でつかみ衛兵ごと投げ飛ばす。もう一方の衛兵のお腹を力強く蹴り飛ばし、二人は左右の建物に大きく背中を打ち付け気絶させた。


 追撃はもう不可能だと判断したアデリーナはまずは二人の衛兵の対処に専念する判断を下しす。数は減らせるうちに減らしておいた方がいい。


 大盾をなくした四人の青騎士は完全に態勢を立て直し連なるように同時に襲ってくる。


 青騎士だけあって動きが素早く、受け流すだけでは反撃できない。剣を両手で持ち替え、繰り出される斬撃をはじいていく。


 さすがの青騎士。洗礼された剣技はアデリーナでも目を見張るものだったが所詮は人間。魔力を使えない青騎士達はアデリーナの相手ではなかった。


 次第に隙が生まれ始めるその隙をアデリーナの魔法を込めた重たい一撃が襲い、一人また一人と倒していく。


 残り二人。体力も魔力もまだ十分余力は残っている。


 順調だ、そう思っていたとき対峙していた二人の青騎士が急に距離を取った。


 何のつもりかと身構えると、一人の騎士のゆっくりとした足音が聞こえる。音のする方に目を向ければ新たに一人の青騎士が援軍に来た。


 その青騎士から放たれるオーラに改めて身を引き締めるアデリーナはゆっくりとその騎士に剣を構えた。


「そこまで。ここは任せなさい」


 その兜の中から聞こえる中世的で柔らかい声が静かにこの場に響く。


 二人の騎士は敬礼するとその場を離れたが、アデリーナはその光景など目に張っていなかった。


 ただ目の前の青騎士にすべての意識が吸い寄せられる。


 あの鎧、あの声、あの剣。


 見間違えるはずがなかった。


「ブルー……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る