第14話 ドラゴンの生き方
千尋峡谷の果てに、ついにたどり着いた俺は、そこで興味深いステンドグラスと、ひとりのおっさんに出会った。
「あ、あ、」
俺は突然現れたおっさんを前に、言葉にならなかった。
聞きたい事が多すぎて、何を聞こうか戸惑っていた。
「ふ、やはり違うな。」
おっさんは開いた扉をしめ、俺に歩み寄る。
「普通なら、俺を襲うところだろ。」
とニヤけるおっさんに、俺はゾッとする。
そう、ここは畜生道。
普通の人間など、いる訳もない。
俺がドラゴンに戻ってこのおっさんを襲った所で、このおっさんもドラゴンに戻れば、俺など返り討ちだ。
そう、俺は弱い。
ドラゴンの俺は、人間になったミーシャにのされる程、弱い。
おそらくこのおっさんにも、のされてただろう。
声の出ない俺のそばまで来ると、おっさんはステンドグラスに目を向けて、話しだす。
「これはな、かつて竜王と名乗ったドラゴンと、人間の勇者との戦いを描いたものだ。」
「竜王?勇者?」
なんか、ワクワクする単語が出てきたぞ。
「ああ、竜王を名乗ったギースンドラゴンは、この峡谷を抜けた先に、封じられている。」
「ギースンドラゴン?」
おっさんの言葉に、俺は思わず聞き返す。
「それが竜王の本名なのか?」
「は?何言ってんだ、おまえ。」
おっさんは、馬鹿を見る目で俺を見る。
「え、いや、」
何か言い返そうとして、俺はハッとし、ステンドグラスを見る。
「もしかして、この青いのは誇張表現とかではなく、本当に青いのか?それに、赤いのもいるし。」
「ああ、なるほど。」
俺の発言に、おっさんは何かを理解する。
「おまえはまだ、知らないようだな。この世界には、三種類のドラゴンがいる事を。」
「そうか。」
おっさんの言葉に、俺はステンドグラスの緑の竜を見つめる。
大きな青い竜の左下に、小さくひれ伏す様に描かれた、緑の竜。
おそらくこれが、力関係。
そして俺が今まで見てきたのは、どれも緑のドラゴン。
俺の両親らしきドラゴンも、千尋峡谷で見たドラゴン達も。
「青いのが、ギースンドラゴン。その上位に位置するのが、ターズンドラゴン。赤いヤツだな。」
俺が最下層のドラゴンだと自覚する横で、おっさんは力関係を説明する。
「ふーん、竜王は最上位じゃないんだ。」
「ふん、こんな序列など、ひとつの目安にすぎん。個人の能力が優れておれば、竜王の名を名乗ってもおかしくないだろ。」
俺の発言に、おっさんは少しふてくされ気味に返す。
「そんなもんかな。」
俺は緑の竜を見ながら答える。
例え他の色のドラゴンが緑でも、俺の立ち位置は同じなんだろな。
「で、おまえは何しに来た?」
おっさんは唐突に話題を切り替える。
俺はそのまま、ステンドグラスを見ていた。
竜王を名乗ったギースンドラゴン。
イカつい感じながら、どこか物悲しげ。
人間の勇者と戦ったって事は、彼は倒されるべき悪だったのだろうか。
「ふん、人間に変化出来るようになったら、やる事はふたつ。すぐにここから出て行くか、ここに居座るか。
こんな所に来ようなんて、酔狂な事はしないぞ。」
ステンドグラスをボケっと見ている俺の横で、おっさんは話しを進める。
「居座る?」
それを聞いて、俺はミーシャの事を思い出す。
「人間に変化出来るって事は、少しは魔素の流れが読める様になるだろ。そしたら、餌の出現もピンポイントで分かる。」
そんなもん、俺は元から出来る。他のドラゴンは違うのか?
でも言われてみれば、餌の出現ポイントに陣取ってたのは、ミーシャだけだった気がする。
そしておっさんは続ける。
「だがそんな生き方は、生物として最低の生き方だ。生物としては、死んでると同じだ。」
「そうなのか?」
おっさんの言葉に、俺はミーシャの言葉を思い出す。
「あんたは私と同じかもしれないと思ったけど、どうやら違ったようね。」
生物として死んでるようなヤツが、仲間を求めるだろうか。
あの時のミーシャは、どこか悲しげだった。
そう、このステンドグラスの竜王の様に。
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