第7話 同族殺し
俺の落ちた千尋峡谷は、ドラゴンが人間に変化出来れば、出られる場所だった。
ここを流れる魔素から、餌となる子羊が形成される。
それをうまく食いつなげれば、ここの暮らしも悪い物ではないらしい。
確か俺って、大気中の魔素を吸収する事で、飢える事はないんだよな。
とは言え、食欲はある。
俺は子羊をゲットしたミーシャを追う。
残った一匹の子羊をめぐり、十匹くらいのドラゴンが争っている。
俺は巻き込まれないように、迂回する。
俺がミーシャに追いつくと、ミーシャのそばに一匹のドラゴンが横たわり、さらに一匹のドラゴンに尻尾の強烈な一撃を見舞った所だった!
「がはっ。」
一撃を受けたドラゴンは、その場にうずくまるも、首だけは上げて、ミーシャをにらむ。
がし!
そんなドラゴンの首すじに、ミーシャがかみつく。
「…!」
かみつかれたドラゴンは、声にならない悲鳴をあげる。
「やめろ!」
走りよってた俺は、ミーシャの側面に、そのままの勢いで体当たりをかます。
どご。
ミーシャは微動だにしなかった。
俺は強固な壁に激突した感じで、一瞬両脚が宙に浮く。
ミーシャは噛みついてた口を離すと、俺の脳天に一撃を叩き込む!
そのまま地面に打ちつけられた俺の背中を、踏みつける!
「が!」
俺の肺から、息が押し出される。
どさ。
俺の目前に、首を噛まれてたドラゴンが倒れこむ。
このドラゴンは、息が絶えていた。
「何のまねかしら、サム。」
ミーシャの低い声は、もの凄い怒気を含んでいる。
俺を踏みつける脚に力を込め、ぐりぐりしてくる。
「な、何って、おまえが何やってるんだよ。」
俺は地面に踏みつけられた身体を、何とか持ち上げながら答える。
俺にはドラゴンであるミーシャが、同族であるドラゴンを殺す事が理解出来なかった。
これは、人が人を殺す事を非常識だと思う感覚と同じだ。
がし!
「!」
瞬間、俺の尻尾の付け根に痛みがはしる!
倒れてたもう一匹のドラゴンが、俺の尻尾に噛みつく!
俺は反射的に身体を起こすと、そのドラゴンの顔面に蹴りをぶち込む!
俺を踏んづけてたミーシャは、俺の動きよりも早く、脚をどかしてた。
俺に蹴られたドラゴンは、俺の尻尾から口を離す。
そこへもう一撃、追撃をかます。
ドラゴンの首は不自然に曲がり、ドラゴンは動かなくなった。
俺は今の一連の動きに、自分の行動なのに理解が追いつかない。
咄嗟に出た俺の行為は、反射的で、無意識に近かった。
だから、俺が仲間であるドラゴンに何をしたのか、即座には受け入れられない。
「分かった?」
そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、ミーシャは満面の笑みで言ってくる。
「所詮この世は弱肉強食。強ければ生き残り、弱ければ死ぬのよ。」
ミーシャはそのまま、倒れたドラゴンのお腹にかじりつく。
「俺は、同族殺しはごめんだし、共喰いはしたくない。」
そんな台詞をはく俺だが、目の前の共喰いの光景には、なぜか嫌悪感を感じなかった。
そしてほとんど食い散らかされた子羊に、かぶりつく。
俺は食わなくても生きていける身体だが、それと食わなくていい事とは、別の話しだ。
そんな俺に、ミーシャが頭突きをかましてくる。
「何食ってんのよ。」
ミーシャは冷酷な眼差しをむけてくる。
その瞳に殺意を感じた俺は、睨み返す。この瞳に殺意をこめて。
「あーん?何食おうが、俺の勝手だろ。」
俺は口を開け、ミーシャを襲おうと、一歩踏み込む。
だけど自分の足音で、俺は我にかえる。
俺は目の前のミーシャを、殺すつもりだと言う事に、気づいた。
俺は自分の本性におののき、数歩後退り。
「な、何を、しようと、してたんだ、俺。」
「ふふふ。」
ミーシャは不敵にほほえむと、子羊をついばむ。
そんなミーシャの首すじに、噛みつきたい衝動が沸き起こる。
そんな衝動に、俺は戸惑う。
そんな俺をチラ見しながら、ミーシャは子羊を完食。
「分かった?ここがどんな所か。」
ニヤけるミーシャの口から、子羊の血がしたたる。
「あ、ああ、なんとなく。」
ここは、食欲のスイッチが入ったら、その食欲に順従する世界。
食糧を口にするために、同族殺し、共喰いも辞さない世界。
なんて世界に転生したんだ。
率直に、俺はそう感じた。
そんな俺を見て、ミーシャはその場から飛び去った。
後書き
ども(・ω・)ノ
このお話し、登場人物は全部ドラゴンなんですよね。
主人公が殺人してますが、ドラゴンならセーフでしょうか?
つかこの世界は畜生道。なんで、大目に見れください。
(´・ω・)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます