第5話 千尋峡谷(せんじんきょうこく

 ドラゴンに転生した俺は、卵から孵化してすぐに、千尋峡谷に落とされた。

 人の言葉を喋れないと言う理由で。

 ドラゴンの声帯で、人の言葉を喋るのは可能なのか。

 どうやら、人の姿に変化する事で可能になるらしい。

 だったら人の姿に変化する方法を、教えてくれよ。




 どさ。


 俺の背中は、敷かれたワラに叩きつけられた。

 どれくらいの高さから落ちてきたのかは、分からない。

 ドラゴンの身体は頑強なのか、痛みとかはなかった。


 そこはお椀をひっくり返した様な、半球状の部屋だった。

 部屋の中央部分の天井は、丸く開かれている。

 その天井の穴から、俺は落ちてきたようだ。


 俺は背中を打ちつけたまま、天井の穴から空を見上げる。

 空は漆黒の闇だ。

 これをどうはい上がれって言うんだか。


 この谷底からの脱出に、軽く絶望を覚えるが、いつまでもここで寝てる訳にもいかない。

 俺は寝返りをうってうつ伏せになると、辺りに目を配る。

 お椀型の部屋の一方には壁もなく、外が見える。


 俺はおもむろに、外に出る。

 少し先に見える、巨大な絶壁。

 左右の長さは、地平線の向こうまで続いているらしく、果てが分からない。

 そして壁の高さも、暗天に吸い込まれていて、分からない。

 そして壁の左右に視線を送った時に気づいたが、この壁はふたつあった。


 ふたつの巨大な壁が、平行に走っていた。

 ふたつの巨大な壁の間は、百メートルくらいある。

 その壁の間には、廃墟の街並みがあった。

 屋根は崩れ、家の壁も崩れる手前で、何とか持ちこたえている。


 以前は人が住む場所だったのだろう。

 だけど今は、人の気配などしない。

 ここに家を作った人たちは今、どこに行ってしまったのか。


 そう、今この谷底にあるのは、凶悪な生き物どもの気配だ。


 俺みたいに、この千尋峡谷に落とされたドラゴンは、多くいるようだ。



「あんたが新入り?」



 不意に声をかけられ、俺はゾクっとする。

 この谷底にいる生き物の気配を探った時、その声がした所には、何の気配も無かったのだ。


 俺は恐る恐る振り返る。

 そこには、一匹のドラゴンがいた。


 俺より、頭ふたつ分、でかい。

 そしてこいつは、メスだ。

 俺の本能が、そう告げる。


 それも、ドラゴン部類では美しすぎる。

 これが人間なら、千年にひとりの美少女と呼ばれる事だろう。


 俺が声もあげられずに見とれていると、相手のドラゴンも見つめ返してくる。


 そしてここは、畜生道。

 こんな美少女ドラゴンを前に、その気が起きないはずはない!

 俺の本能は美少女ドラゴンを襲おうとするが、前世の人としての記憶を持つ俺は、美少女ドラゴンに対する恐怖が上回り、身体が硬直したままだった!


「ふーん。」

 身体が動かない俺の周りを、美少女ドラゴンがジロジロ見つめながら、歩き回る。


「なるほどね。」

 俺の周りを3周ばかりうろついた美少女ドラゴンは、俺の正面で立ち止まる。


 何か知らないが、俺の全てを見透かされた感じがする。

 俺はこいつに、一生勝てないのでは、との思いが心をよぎる。

 その感覚を振り払おうと、俺は頭をふる。


「恐いの?」

 静かに放たれるその言葉に、俺は頭をふるのをやめる。

 さらなる恐怖が、俺をおそう。

 蛇ににらまれたカエルの気分だ。

 だが、俺はカエルではない。ドラゴンだ。

 いざとなったら、こいつに一矢報いてやる、ぞ!


「ふふふ、あんた気に入ったわ。」

 美少女ドラゴンは、ニヤりとほくそえむ。

 さっきまで感じてた恐怖の感情が、嘘の様に引いていく。

 初見の時から今の様な感じなら、普通に恋に落ちてたかもしれない。

 だが、この美少女ドラゴンは、俺の敵だ。

 俺の本能が警鐘を鳴らす。


「あんた名前は?」

 おし黙る俺に、美少女ドラゴンは聞いてくる。


「名前?」

 名前と聞かれても、俺が勝手に名乗ってもいいのかと、ちと悩む。

 普通は親からつけられるモノだが、ドラゴンってどうなのよ。

 って思ったが、そういや、ここに落とされる前に、なんか聞いた気がする。


「サム、かな。」

 確か、俺の父親らしき人が、そう呼んでた気がする。

 俺としては、もっとかっこいい名前が良かったのだが。


「へー、サムって言うんだ。」

 美少女ドラゴンは、なぜかニヤける。


「私は、ミーシャ。」

 美少女ドラゴンは、自分の名前を名乗る。

 その笑顔がまぶしかった。



後書き

ども(・ω・)ノ

これを書くだけで、3週間かかりました。かっこ笑い


ミーシャ以外のドラゴンも出そうと思ったけど、美少女ドラゴンではないんで、やめときました。

千尋峡谷の説明キャラがほしかったのですが、ちと不自然ですよね。

それが3週間かかった所以です。

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