第2話 畜生道に堕ちる理由
病弱な身体で産まれた俺は、なんか神さまのジジイの手違いで、そんな身体で産まれたらしい。
で、そのお詫びとして、次の俺の人生は、俺の望むものを授けてくれると言うのだが、俺の次の転生先は、畜生道だった。
「え、ちょっと待てよ、ジジイ!畜生道ってなんだよ!」
俺は当然反論する。
前世も病弱で悲惨な人生だったのに、何が悲しくて、獣に転生しなくちゃなんねーんだよ!
「いや、だっておまえ、晩年はすげー事妄想してたじゃん。」
「はあ?妄想しただけだろーが!」
そう、俺は死ぬ直前の数年間、まともに身体を動かせなくなっていた。
こうなったら、看護師のお姉さんを視姦するしか、やる事がなかった。
でも妄想するだけで、俺の股間も反応する事も無かった。
俺はいつかこの妄想を実行する事だけを、活きる糧としていた。
「いや、あの妄想は、人としての道を外れている。おまえの産まれにこちらのミスがあったとしても、あれは擁護出来ないのじゃ。」
「このくそジジイ!おまえのミスだろ!ちゃんと人間に転生させろや!」
これには俺も、キレるしかない。
元はと言えば、こいつのせいだろ!
なのになんで俺が、獣として生きなくちゃならん?
「済まんが、今のおまえを、人間界に転生させる訳にはいかん。地獄送りを回避させただけでも、良しとしてくれんかの。」
「何が良しだよ!納得いかんぞ!」
「いや、今のおまえのキレやすさは、流石に人として転生させる訳にはいかん。」
「ぐ、」
ここで神さまのジジイは、神らしい威厳を示す。
くそ、俺は納得いかんが、これ以上ごねたら、次の転生に関する望みとやらも、聞いてくれないかもしれない。
「くそ、じゃあ、なんの動物に転生したいか、選べって事かよ!」
俺はジジイの言いたい事を、理解する。
「そうなるかの。おまえの言った病気にならない強い肉体、前世の記憶の引き継ぎは、叶えてやるがの。」
「病気にならなくても、食われちまったらおしまいだろ!」
畜生道は、弱肉強食の世界。
人としての記憶が、なんの役に立つのか知らんが、強い動物に転生しない事には、普通に食われるだけじゃねーか。
「そうならぬよう、強い動物を選んでくれ。」
神さまのジジイも、そこは俺と同じ意見らしい。
「くそ、」
受け入れるしかないのか。畜生道に転生する事を。
ならば、最強の動物を選ばないといけない。食われる事なく、寿命尽きるまで生きるには。
「じゃあ、ドラゴンで。」
最強の動物と言ったら、これしかない。
神の使いとか乗り物とされる動物も、悪くない。
だが、神に縛られて生きるのは、勘弁してほしい。
「何?ドラゴンとな?」
神さまのジジイは、キョトンと聞き返す。
「ああ、ドラゴンなら最強だろ。」
「いやー、最強って言ったら、普通は百獣の王ライオンとか選ばない?」
「はあ?やだよライオン。千尋の谷に突き落とされるんだろ?」
強い個体しか育てようとしないライオンなんて、願い下げだ。
病魔に打ち勝つ強い肉体で産まれても、それが動物としての強さには、つながらないだろう。
「いや、それは単なる迷信、と言うかライオンじゃなくて、獅子なのじゃが。」
「はあ?どっちも同じだろ!日本語に訳しただけだろ!」
「いや、まあ、そうじゃの。」
神さまのジジイは、俺を説得する事を諦める。
頭に血が昇ってるヤツに、正論は通じない。
そいつが正しいと思ってる事が、そいつにとっての正解なのだ。
「よーし、じゃあ俺はドラゴンだな!」
神さまのジジイが折れたのを見て、俺はガッツポーズをキメる。
「じゃが、ドラゴンとなると、ワシの管轄外での。」
「はあ?好きな動物選べって言ったの、おまえだろ!」
「いや、おまえの生きた世界に、ドラゴンなんて居なかっただろ。」
「知るかよ、そんな事!」
ほんと、使えねージジイだ。
てめーで望みを言えって言ったのに、出来ねーって、なんなんだよ!
「ち、管轄の神に頼んでみるから、ちと待ってろ。」
ジジイはムスっとした口調で言い放つ。
モヤっとしたジジイのシルエットから、存在感が消える。
やべー。
ちと言い過ぎたか。
ふてくされたジジイを見て、俺も少し冷静になる。
ここで神さまを怒らせるのは、まずいだろ。
仮にも俺を、高待遇で転生させてくれようとしてるんだ。その転生先が畜生道だとしても。
なんて反省してたら、神さまのシルエットに存在感が増す。
と同時に、モヤっとしたシルエットがもう一体登場。
こっちはなんか、女神様っぽい。
「もう、またなの。いい加減にしてよ。」
「まあ、そう言わんといてや。ワシらの仲じゃろ。」
なんか、女神様は不機嫌っぽい。
それを神さまがなだめてる。
俺に色々気を使ってくれてた神さまに、なんか文句を言う女神。
俺は少し前の自分を棚に上げ、この女神が少しムカついてきた。
今は人魂の俺だが、俺に身体があったらこんな女神など、あんな事やこんな事とか、やってやる。カタキはとるぜ、神様のジジイ!
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