第2話 俺はロリコンじゃねぇ!

俺は小さな娘が好きだ。

そう言うと、必ずロリコンだと揶揄されるが、俺はそれを断固として否定する。

なぜならロリコンとはロリータ・コンプレックスの略であり、俺は自分の幼女好きをコンプレックスだと思ったことがないからだ。コンプレックスでないのならば、それはただの幼女好きとなる。きわめて単純な論理なのだが、これを真に理解してくれる人がこの世にどれだけいるのだろうか。少なくとも、俺がこれまでの人生で出会った人達からは理解を得られなかった。

小さな命を愛でて育むことは、全ての生物における共通項であり、決して恥ずべきものではなく、まして他人から後ろ指をさされる筋合いなど毛頭ないのだ。それに何かと物騒な昨今だからこそ、癒しの象徴ともいえる幼女を清く正しく愛でるということは重要だと考える。世界を平和にするのは武器でも宗教でもエロスでもスポーツでもない。“幼女”なのだ。


********


「おぬし、ワシが見えておるのか?」


耳元で直接語りかけてくる少女の生声に、俺は反射的に目を開いてしまった。最初に目に写ったのは、腰にまで延び長く艶やかな黒髪。次に一流モデル顔負けの輪郭を軸にした大人びた顔立ちと、幼さを感じさせる無垢な瞳が写り、あまりにも強烈なギャップに思わず昇天しそうになった。その後、視線を下ろしたところで、俺の20年間極めきったチェリーメンタルが限界を迎え、両の鼻孔から大量の血潮が噴水のごとく吹きあがった。。

突然の俺の奇行に驚き、列にいた女子生徒たちが悲鳴を上げているのが朦朧としてゆく意識の中でわかった。

おそらく今日の俺の奇行は、ここにいる女子生徒によって、瞬く間に広がり、3日後には学内のいたるところで“血潮の奇行氏”の異名つきで俺の醜態が面白おかしく語られるに違いない。

これ以上、醜態を晒すのは自分の貴重なキャンパスライフに、深すぎる傷をつけかねないと思い、なんとか平然を保とうとする。しかし、理性とは裏腹に、俺の脳内は先ほど目にした光景で満ち満ちていた。少女が身に纏っていたソレは、少女の幼体にはあまりに大きすぎるようで、オシャレ盛りの女の子が着るにはあまりに不釣り合いとしか言いようがなく、いたるところから、絹のように柔らかい若肌が、露わになっていた。

肌が見えるだけならまだよいのだ。しかし、先ほど俺が目にしたのは。まるで桜の花びらを潰したかのごとく、淡いピンク色をしていた。その形状や大きさには個人差、年齢差、人種差があり、10歳前後から発達し始め、成人では前胸壁の大胸筋上に半球状(椀状)に隆起し、底面の直径は平均で10~12㎝ほどであるともいわれる。ロシア語でpapilla.ドイツ語でBrustwarze.英語でnipple.そして日本語では


“”“”“乳首”“”“” 


自慢ではないが、俺は女性に対する耐性が異様に低く、彼女ができたことはおろか、クラスの女子ともまともに話したことがない。そのため、俺の精神は少女の生乳首の刺激に耐えられるはずもなかった。

気づくと、視界がぼやけるとともに、意識が遠のいていくのが分かった。


「おい、聞いておるのかッ!」


薄れゆく意識の中で、少女と思しき声が聞こえる。

「見えておるのだろう!ワシを無視するでないッ!!」


しかしなんだろうか、あの話し方は。おそらく齢15もいかなそうな少女の一人称がワシ? 見た目の割に中身はめっぽう年老いているのか?

こんなに可愛らしい幽霊がいるのだろうか? その先入観が、一番危ない。数百年もの生きている幽霊だ。人間の視覚を欺くなどたやすいだろう。決して少女の見た目を信じてはいけない。


「おいっ!いつまで知らんプリンをするのじゃ!!」


あ、だめだ。考えごとをしていたら余計に意識がなknって・・・・。



******


目を開ける。視界には、見覚えのない天井。


「ここは・・?」

『おはようございます。』


俺のつぶやきに対し、若い女性のような声で返答が返ってきた。ベッドの周りにあるカーテンを開けてナース服の女性が入ってきた。手には血液と思われる赤い液体が入った袋のような物があった。おそらく輸血の準備だろう。ここまでの状況から推察するに、バス停で鼻血を吹き、倒れた俺は、その後に救急車で病院まで運ばれ、適切な処理の結果、一命をとりとめたというところだろう。


「なんじゃ、目覚めよったかぁ。」

ぶはっっっ!?

その声を聴いた瞬間、俺の鼻孔は再び歓喜の血潮を上げた。輸血直後という事もあり、盛大に噴き上げた血液はシーツを赤く染め上げた。それを見たナースが悲鳴を上げ、増援を呼ぶ。

駆け付け医者が近づいてくるのを視界の端でとらえながら、俺は再び目を閉じた。


******


再び目を開ける。視界には、先ほど同様の天井が見える。俺はあの後、駆け付けた医者の適切な処置のおかげで、天国までの片道切符を使わずにすんだようだ。しかし、先ほどまでとは違い、身体が重く、こころなしか呼吸苦しい。窓の外は、一面の黒だった。どうやら寝ている間に日が暮れてしまったらしい。重い身体を無理やりに起こすと、視界の端に白い布の端が見えた。さっきの看護師かとおもい、視線を向けると、そこにはパイプ椅子の上で体育座りをしながら眠る少女の姿があった。


とっさに声を出そうとする俺に、激しい頭痛が襲った。度重なる出血と輸血で、身体が限界を迎えているのだろう。俺が目覚めたことに気づいたのか、椅子から立ち上がった少女は、俺の方に向かって両手をかざす。


一体、なにをする気だ?


次の瞬間、少女の手が光る。光はどんどんと強まり、俺には、それが生命の灯を再起させるような温かな閃光のように写った。光がやむと、少女は再びパイプ椅子に戻った。俺は自分にどんな変化があるのかと全身をくまなく確認した。手足が触手にされていないか、顔が動物にされていないかなど、くまなく探った。しかし何も変化はなかった。それどころか、先ほどまで感じていた、体のダルさや重さが感じなくなっていた。それだけではない、額にあった古傷までもがきれいさっぱりなくなっていた。

いったい誰が?

いや、答えはもうわかっている。俺の目の前にいる少女しかいない。

俺は意を決して、少女に声をかけてみた。


「あのぉ・・・。」


少女に反応はない。体育座りの態勢を固め、こちらに視線を向けることはない。俺は言葉をつづけた。


「もしかして、君が治してくれたの?」


またしても少女に反応はない。しかし、俺は言葉をつづけた。


「ありがとう。」


この一言に、少女は顔を上げ、視線をこちらに向ける。そして椅子から立ち上がると、無言で俺の手を握ってきた。


『いまの、もう一度言ってくれぬか?』


俺の手を握ったまま、少女がそう言った。


「ありがとう。」


もう一度、今度は先ほどよりも少しだけ大きな声で、少女に感謝を伝えた。

しかし、少女には足りなかったようで


『もう一度じゃ』


再び俺にお礼の催促をする。少女の催促に応え、俺は先ほどよりも大きな声で感謝を伝えた。


「ありがとう!」

『もっとじゃ!』

「ありがとう!!」

『もっともっとじゃ!!』

「ありがとう!!!」

『もっともっともっとじゃ!!!』

「ありがt」 ガラガラ


6度目の感謝を叫ぼうとした瞬間、部屋の扉が開かれ、ナースのお姉さんがこちらを睨んでいるのが見えた。

おそらく彼女には、夜中に俺が一人で発狂しているように見えているはずだ。なんてこった。昼間の鼻血だけでなく、こんなタイミングでも醜態を晒してしまうとは。


『夜中なんですから、静かにしてください。大きな声を出されるとナースコールが聞こえなくなる可能性があるので、気を付けてくださいね。』

「あっ・・・す・すみません・・・。」


中学時代、ヤンキーに絡まれたときのように身体を小さくし、頭を下げながら、か細い声でそう言った。

ナースが部屋を離れたのを足音で確認し、少女と二人で胸をなでおろし、その後二人でベッドにインした。

昼間に見た時は、あれほど畏怖の対象となっていた少女だが、今は、俺の隣ですやすやと寝息をたてている美少女だ。彼女はおそらく、この世の存在ではない。幽霊かどうかはまだわからないが、少なくとも、彼女は、俺以外には見えていないし、魔法のようなものも使っていた。

誰にも見えない以上、俺がこの謎の少女を国に引き渡すこともできなければ、研究所に売り飛ばすこともできない。これからのことを考えていると睡魔が来た。今日は一日中、寝ていたはずだが、見えない疲労がたまっているのだrう。



                *********


翌日、俺は無事に退院することができた。大学までは、病院から徒歩5分もかからない。昨日は無断欠席をしてしまったし、今日はきちんといかなくては。


「きょうはどこに行くんじゃ?」


俺の隣にいた少女が声をかけてくる。


「大学だよ」


そう言うと、少女は理解してるんだかしてないんだかよくわからない反応を見せた。大学までの通学路を二人で歩きながら、ふとあることに気がついて、少女に問いかけてみた。


「キミ、名前なんだっけ?」


すると少女は、待ってましたとばかりに俺の前に出てきて胸を張りながら、決め顔で名乗りを上げた。


『ワシは土偶なのじゃ!』

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