第3話 金儲けの道具

【藤井寺市】

観光難易度A級とも謳われ、アジのある古い建物が数多く存在する町。世界遺産にも登録されている百舌鳥古市古墳群が有名。中でも、津堂城山古墳はもっとも古く、古墳内は公園として整備され誰でも入ることができる他、地域のイベント場所としても使用されている。


******

二日ぶりの大学は、すぐに終わった。俺はバス停で藤井寺行きのバスを待つ。目の前ではカップルが肩を組みあいイチャついている。

クソが、大学は繁殖ファームじゃねぇぞ。心の中でそんな悪態をつきながらヘッドホンを装着し、スマホのプレイリストを起動する。


『ワシらもやるぞ大輔!』


俺の身体を登り、足を絡め、腕を首の後ろに回し、顔をこちらに近づけてくる少女。その顔面を俺は正面から鷲掴みにすると、ぶはっっぶむ!という可愛らしい音が鳴った。コイツは俺以外には見えないので、コイツとは人前では話すことを控えている。しかしコイツは俺は自分の存在のイレギュラーさに気づいていないのか、今日もずっと俺にダル絡みしてくる。見た目は綺麗で俺の性癖にも合っているのだが、これだけしつこいとうんざりする。


『なにをするのじゃ大輔!!』


俺の手を必死に振りほどき、猛抗議をする少女。そんな彼女を放って俺はバスに乗り込む。バスの車内は、椅子が全て前向きになっており、真ん中に通路が広く設けられている。運転席のすぐ後ろには座敷ではなく、荷物置きのようなスペースが取られていた。いつものバス車内の光景だ。


『逃げるでない大輔。』

「ゲッッ!?」


車内前方で出発を待っていると壁をすり抜けてくる少女が見えた。彼女の正体はいまだ掴めていないが、このような光景を見る限り、幽霊などの類にしか思えない。少女が文字通りの無賃乗車をかまし、共有の荷物置きスぺースの上で仁王立ちしているのを見て、注意の言葉が喉を通過したが、口から出ることはなかった。

駅に着くまで知らんぷりを決め込むことにした俺は、再び手元のスマホに視線を向かわせた。出発のアナウンスと共にバスが動き出す。想定以上に揺れる車内に驚き、隣の手すりに慌てて捕まる。向かいの窓に視線を向けると、手すりにしがみつきながら小さな身体を縮こませガタガタと震える少女の姿が写った。どうやらこの少女、バスの揺れが苦手らしい(笑) 少女は俺と目が合うとか細い声で“助けて”と呟いた。俺は少女のSOS信号を受信し、そして放置した。あまりに無慈悲な俺の対応に、顔面を青くし俺の服の袖を掴み、再度SOSを呼びかける少女。しかし俺が少女の助けに応じることはなく、結局そのまま駅に到着。バスを降りると少女は干からびたカエルのごとく動かなくなっていた。俺は少女を車内に置き去りにし、帰ることにした。


帰宅すると、リビングから母親の風呂が沸いているとの報告が聞こえた。風呂の湯船に浸かりながら、昨日から今日までの出来事を振り返る。バス停で出会った謎の少女の正体。彼女は俺以外には見えていなくて、そして謎の力で俺の怪我の治療もしてくれた。その後の会話を振り返っても悪い奴ではないのは確かだろう。しかし俺の疑問は別の所にあった。彼女はなぜ、俺にしか見えないのか。俺の特殊能力が目覚めたのか、それとも俺の幻覚か。バス停での一件の時、確かに俺は少女の温もりを感じた。これが錯覚でないとすると幻覚という線は薄い。とすると、やはり俺の特殊能力の開花によるものだと考えられるが、彼女が仮に幽霊だったとして、俺に霊感能力が開花したのだと仮定すると、他にも幽霊の類が見えるようになるはずなのだが、帰りに近所の墓地によってみたところ、なにも見えなかった。俺の頭で思いつく限りの仮説を立ててみたが、どれもうまく当てはまらない。

そこで俺は、少女の正体について考えるのをいったん止め、今後、少女をどうするかについて考えを膨らませた。

まず少女の能力を整理する。俺以外には姿が見えず、乳首は綺麗なピンク色で大きさはBよりのAカッp途中で薄汚い煩悩が脳内を埋め尽くしかけたが、この二日間で鍛え上げた強固な理性で何とか思考を戻した。物や生物をすり抜けることができ、仮説ではあるが病気を治すことができる。

これではまるで“神”ではないか。

そう思った途端、少女を活かすアイデアを思いついた。


翌日、一昨日と同様にバス停で並んでいると交差点のむこうから少女が走ってくるのが見えた。


『大輔ぇぇ!!昨日はよくも、、、よくもぉぉぉ!!』


なにやらキレている様子だが、どうしたことだろうか。昨日のことを思い返しながら到着したバスに乗り込む。昨日同様に少女はバスの壁をすり抜け無賃乗車。その後、仁王立ちのまま俺と別れた後の昨晩の出来事を話し出す。どうやら彼女はあの後もしばらく起き上がれず、気づくと洗車場の中にいて洗車の音と暗さにビビり再び気絶した挙句、つい三時間前に目が覚め、俺のことを探したていたが、土地勘がなさすぎるため、迷子になっていたらしい。なんとも間抜けな話である。大学に着き、周りに人がいなくなったのを確認し、俺は少女に昨晩考えたとっておきのアイデアを聴いてもらった。


「俺と、宗教つくらないか?」

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