最高傑作

 「くそっ…ここは…」

 俺達が眠らされて数時間経ったのだろうか。俺は知らぬ所で目覚めていた。

 俺は周りを見渡す。そこは巨大な檻で囲まれており、牢屋に入れられた感覚であった。

 その檻の向こう側には、倒れているトロイト、アヤカ、トサマがいた。

 「おい!皆!」

 俺はすぐにそっちに近付こうとするも、その行動はある者に遮られた。

 「待て」

 後ろを振り向くと、そこには俺達を寝かした老人、ミハイル・マッドがいた。

 「ようやく目覚めたか。勇者モーガン」

 「お前…何をする気だ」

 「まぁ、見れば分かる」

 そして、ミハイルは俺がいる巨大牢屋にとある者を入れた。

 そいつは、下半身は馬、上半身が人間の男という摩訶不思議な生物であった。

 「まさか、ケンタウルスとか言わねぇよな」

 「そのとーり!こいつは儂の研究の結果産み出された最高傑作、ケンタウルスであーる!」

 「うぼぉぉぉぉう!」

 ケンタウルスが叫ぶと、ミハイルは嘲笑うかのように話す。

 「コイツを倒せたら、お前達を解放してやろう」

 「ほう。言ったな?」

 「あぁ。儂の辞書に二言はない」

 「来るなら…来い!」

 「うぼぉぉぉ!」

 ケンタウルスが斧を持ち、襲いかかる。

 下半身が馬なのもあるのか、その突進はとても速く、スーパーカー並だ。

 「ぼうがっ!」

 そして、ケンタウルスは斧を振り上げる。

 「はぁぁっ!」

 「させるかよっ!」

 俺はそれを横に避け、斧が地面に突き刺さる。

 「んが?」

 ケンタウルスは不思議そうに俺の方を見る。

 「次はこっちだ!」

 俺がケンタウルスに斬りかかろうとした瞬間、奴は斧を投げてきたのだ。

 (なっ、まずい!)

 俺はそれを避けるため、身を躱すと、ケンタウルスの野郎がタックルをしてきたではないか。

 「がぅぅ!」

 「ぐっ!」

 俺はトラックと事故ったかのような痛みと衝撃を受け、吹き飛ばされる。

 「ぐはぁっ!」

 俺は頭を当てないよう、受け身を取る。

 「クソがぁ…」

 骨にヒビが入った。口から血が流れるも、俺はそれを拭き取った。

 「ちっ、やるじゃねぇか」

 俺は二本のナイフを捨てる。

 「なら、ステゴロで行こうじゃねぇか!」

 「うがぁぁぁ!」

 またも奴がタックルをする。しかし、それはもう覚えた。

 「………ここだ!」

 俺はタックルを受ける寸前に横に避ける。

 「?!」

 ケンタウルスは頭を掻きながら、こちらに睨む。

 「ふがぁぁぁ!」

 避けられたのが逆鱗に触れたのか、奴は怒りながらこちらにタックルをする。

 「どうやら、飼い主がダメなようだな」

 俺はポケットから一枚の金貨を取り出す。

 「それっ!」

 それはフリスビーのように投げられ、見事に奴の目に当たった。

 「うがっ!うがぁぁ!」

 奴は痛みで悶える。

 「ちょいと失礼」

 俺はその隙を突いて、奴の後ろに周る。そして、乗馬した。

 「上半身が人間な事を後悔しな」

 俺は頭を掴み、首の骨を折った。

 「カヒュッ」

 ケンタウルスが倒れる前に、俺は奴から降りる。そして、奴はそのまま死に、灰となって消えた。

 「な、な、ケンタウルスーーー!」

 ミハイルが驚き、牢屋に入る。

 「おいおい、無視するなよ」

 俺は奴の頭を掴み、壁に押し付ける。

 「ぐぶっ!」

 「アンタ、さっきの奴を最高傑作と言ったが、もしかして、他の人間も実験に使ったと言わねぇよなぁ?」

 「なっ、使ったに決まっているだろう!儂は科学者だ!人間どもを実験に使っているさ!」

 「例えば?」

 「せ、成人した男と豚、女と鳩、老婆と牛、さらに幼児にネズミだぁ!」

 「この野郎……」

 すると、ミハイルはこちらが何も言っていないのにペラペラと喋りだした。

 「わ、儂はかつてメリンボの科学者であった!しかし、危険な人体実験をしているとバレて、メリンボを追放されたんだ!その後、魔王ジェミー様にスカウトされ、魔王直属の科学者となったんだ!」

 「そうかよ」

 俺はミハイルを睨む。

 「なら、俺達を出してくれよ」

 「はっ、はいぃぃぃ!」

 そして、トロイト達が目覚め、俺達を地上に出した。

 俺達が出た所は既に廃村状態であった。恐らく、この村にいた者が、ミハイルの実験対象となったのだろう。

 「さて、後はどうするかな?」

 俺達は武器を構える。

 「くっ、かくかる上は!」

 ミハイルが懐からある装置を出したかと思うと、奴はすぐに消えた。

 「逃げたか」

 「卑怯ですね」

 「私たちを眠らせて、何をしたかったんでしょう?」

 「ふぁ…」

 「とりあえず、旅を続けるしかないな」

 「えぇ。そうしましょう」

 そして、俺達は廃村を出て、旅を続けることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る