窃盗団と悪魔の科学者

 例の洞窟から離れ一日が経った。俺達は今、アレント村という小さな村にいた。

 「皆、おはよう」

 「おはようございます」

 「えぇ」

 「ふぁ~眠ぃ」

 俺達は宿から出て、村の広場で会議をしていた。

 「さて、今日はどこまで行く?」

 「そうですね。ここから西の所にナコス町があります。そこで情報収集をしましょう」

 「そうね」

 「あぁ。そうしよう」

 すると、とある老婆が話しかけた。

 「お前さんら、ナコス町に行くのかい?」

 「ナコス町がどうしたんです?」

 「そこは最近、窃盗団の奴らが乗っ取ったのよ」

 「乗っ取り?」

 「えぇ。奴らは金と命を町長のマスーダから奪い、町を乗っ取った」

 「ほう。そんな下衆な奴らが…」

 「風の噂では、魔王に雇われたと…」

 「魔王に!?」

 「まぁ、噂じゃよ。こんな婆さんの戯れ言なんて、無視したほうがいい」

 「いや、そんな奴らがこの世に蔓延ってはいけない。俺達がそいつらをとっちめましょう」

 「本当かい?」

 「えぇ。任せてください!」

 「なにせ、選ばれし勇者、モーガンの言うことです。嘘偽りなしだ」

 「じゃあ、行きましょう」

 「ふぁ…まだ眠い」

 そして、俺達はナコス町に向かった。

 「確か、ここら辺にナコス町が…」

 「テメェら!金を出せ!」

 俺達の前に現れたのは、ナイフを持ったチンピラらしい男達。

 服装は世紀末そのもので、こちらを殺しかねない目をしていた。

 「なんだ、お前達。もしや、窃盗団の奴らか?」

 「うるせぇ!早く金だしな!」

 そう言った途端、オレンジのモヒカンの男がナイフを突き出す。

 「はぁっ!」

 「おっと、見えるぜ」

 俺はそいつの腕を脇で挟み、関節を逆方向へと曲げた。

 「いがっ!いががが!」

 「この野郎!」

 もう片方のスキンヘッドの男がトサマを狙う。

 「死ねやぁ!」

 「切らせはしない」

 トサマの高い跳躍。それに男は驚く。

 「なっ…高く」

 「お前のお陰で眠気が覚めた」

 そして、かかと落としで奴の右肩を壊した。

 「ぐばぁっ!」

 悶える二人に、俺は尋問をかける。

 「おい。お前達、ナコス町を乗っ取った窃盗団の奴らか?」

 「は、はい!そうですぅ!」

 「その窃盗団の居場所は?」

 「な、ナコス町!ナコス町ですぅ!」

 「そうか。じゃあ、連れてってもらおうかな」

 「は、はいぃ!」

 そして、俺達はチンピラ二人の案内でナコス町に着いた。

 「こ、ここです…」

 「そうか」

 俺は手刀で二人の意識を刈り取った。

 「かはっ」

 「へげっ」

 「凄い。やっぱり暗殺者家の末裔でもあるから、こんなことも出来るんですね」

 (そういえば、前世は暗殺者だったな)

 そして、俺達は適当に歩いていたガラの悪そうな男に話しかけた。

 「アンタ、この町を支配してる窃盗団について何か知らないか?」

 「あぁん?じゃあ、金を出しな」

 そいつはすぐにナイフを出した。

 「全く、この町はナイフを持っていいのか」

 俺達は戦う準備をする。すると、奥からある男がやってきた。

 「オイオイオイ何やってんだ」

 そいつはクロスボウを持っている、茶髪の若い男であった。

 「あっ、サカクさん!」

 「客人を脅しちゃあダメだろぉ」

 「す、すいません!」

 「そんで、君たちは?」

 「俺達はアンタのような窃盗団を滅ぼしにきた勇者御一行だ」

 「勇者ぁ?まぁ、一旦話し合いましょうや」

 男は余裕そうな表情で、歩き始める。

 「………」

 俺達は男を警戒するも、男は余裕綽々な雰囲気を見せていた。

 「仕方ない。一旦着いていこう」

 そして、俺達が着いたのは酒場。

 「入るぜ」

 男が入った瞬間、そこにいた人たちはすぐに逃げたした。

 「なっ…(ここにいる人が逃げ出すぐらいコイツは怖いのか)」

 そして、五人席に俺達は座った。

 男は葉巻を取り出し、フィンガースナップで店員を呼んだ。

 「火」

 「は、はい…」

 店員は手を震わせながらライターっぽいもので葉巻に火を付けた。

 「ありがとよ」

 「い、いえ…」

 店員が去ると、男は自己紹介をし始めた。

 「俺はサカク・ヒトコシ。窃盗団『アラネア』のリーダーよ」

 (アラネアねぇ…)

 俺はその名前に聞き覚えがあった。




 それは、前世で暗殺家業をやっていた頃に聞いたゴロツキ集団の名前であった。

 『アラネア』。ラテン語で蜘蛛。リーダーは日下敏彦くさかとしひこというチンピラ。

 俺の暗殺対象であった議員が護衛にしていたのだ。

 (まさか、この世界でも悪いことをしてたとはな)

 俺は蔑むような目でサカクを見つめる。

 「さて、アンタら。アラネアを滅ぼしに来たと」

 「そうだが、なにか問題が?」

 「俺のバックには魔王ジェミーが付いている。この町の町長、マスーダを殺したのもジェミー様の為だ」

 「そうか。じゃあ、アンタを倒して牢屋にぶち込んでやるよ」

 俺達は席を離れ、戦う準備をする。サカクは余裕そうな表情でクロスボウを構える。

 「さぁて、誰から来る?」

 「まずは俺からだ!」

 トサマがサカクに殴りかかる。

 「はぁっ!」

 「おっとぉ?」

 サカクはすぐに腕をクロスするも、トサマの金剛石のような拳は奴の右腕を壊す。

 「なっ!くそがぁ…」

 「足ががら空きよ」

 アヤカがサカクの足を狙う。すると、奴はある二文字を言った。

 「硬化!」

 「はっ!」

 矢が射出される。しかし、思ってもいなかった事が起きた。

 アヤカの矢が、足に弾かれたのだ。

 「なっ、なんで…」

 「さっきも言っただろう。俺のバックには魔王ジェミーが付いているとなぁ!」

 サカクが片手でクロスボウの矢を射出する。なんと、その矢には黒いオーラが宿っていた。

 「魔弾!」

 「くっ!」

 それはアヤカの頬を掠める。

 「ちっ、今のを避けるか」

 「私は世界一運がいいの。舐めないで」

 「次はこっちだ。行くぜトロイト!」

 「はい!」

 俺はダガーナイフと唐紅の短剣で奴に切りかかる。

 「はぁっ!」

 「させるか!」

 しかし、それはフェイント。奴の体から約一ミリでナイフを止める。

 「なっ…(フェイントかっ…!)」

 「トロイト!」

 「喰らえっ!ブリザードフレイム!」

 トロイトの杖から氷と炎の光線が出た。これは、アイスアタックとファイアアタックを掛け合わせたものだとか。

 俺は体を背け、光線がサカクに当たる。

 「ぎゃぁぁぁ!」

 サカクは操り人形の糸が切れたかのように倒れた。

 「よし。後は…」

 「ぐばぁぁ!」

 「うがぁぁぁ!」

 「何だ!何が起こった!?」

 俺達は外に出る。するとそこには、苦しむ者達が。恐らく、アラネアの者だろう。

 「何があった…」

 すると、奥からある老人が現れた。

 「コッコッコッ。敗れたか。サカクの奴」

 その老人はマッドサイエンティストを表したかのような者であった。

 そして、老人は俺達の前で止まる。

 「どうも。諸君」

 「誰だアンタ」

 「儂は、ミハイル・マッド。しがない科学者さ」

 「がぁぁぁ!」

 「ぐわぁぁ!」

 さっき気絶させたチンピラ二人がミハイルに縋りつく。

 「ミハイルさぁぁん!何ですかこれぇぇぇ!」

 「クココ、儂はお前らアラネアのメンバーに悪魔・・を入れたんだ」

 「あ、悪魔ァ!?」

 「あぁ。お前らはあの時、魔力増加の為にチップを入れただろう?もしサカクが何者かに負けた時、そのチップは体を蝕む悪魔へと変貌するのだ」

 「な、何故ぇぇぇ…」

 「そりゃあ…………負けた人間に、利用価値は無いからな」

 ミハイルがそう言った途端、奴らは倒れた。

 「な…」

 「安心せぇ。やったのはアラネアの奴らだけだ」

 「この…下郎がぁぁ!」

 一番最初に怒りを見せたのはトサマ。トサマはミハイルに殴りかかるも、奴は老人らしからぬ素早い動きを見せた。

 「何ッ!?」

 「少し眠ろうか」

 ミハイルが懐から注射器を取り出し、トサマの左腕に刺す。

 「ぐっ!」

 それが抜かれると、トサマは地面に倒れ眠ってしまった。

 「トサマ!」

 「お前らも眠れ」

 ミハイルが他に用意していたであろう注射器を出し、それを俺らに投げた。

 「なっ!」

 「うっ!」

 「きゃっ!」

 それらは全て俺達に刺さり、その刹那、眠気が襲ってきた。

 (なんだ…ね……む…い)

 そのまま俺は、意識を失った。

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