狙撃手と運

 洞窟を出た俺達はカイニドのいる村、アルセボ村に戻った。

 「おぉ、勇者御一行。なんとか洞窟の怪物を倒したのですか?」

 カイニドが戻ってきた俺にそう質問する。

 「はい。なんとかモンスターを倒し、人間を解放しました」

 「おぉ…よかった」

 カイニドが泣き崩れる。

 「そんなに泣かなくても」

 「ヴっ…ヴっ…」

 すると、彼の後ろから弓と矢を持った緑のフードを被った女の子が近付いてきた。

 「お爺ちゃん、なんで泣いてるのよ」

 「あぁ、アヤカ。この人達が洞窟のモンスターを倒してくれたんだ」

 「そうなの?」

 トロイトが女の子に近付き、俺の肩をつかむ。

 「はい。この勇者であるモーガン・ヨシネムと私、魔法使いトロイト・シウバが倒したんです」

 「へぇ…」

 すると、彼女はフードを上げる。彼女の顔は可愛さを持つ長いピンク髪の美少女であった。見た目からして、恐らく十代くらいなのだろうか。

 「私は、アヤカ・カイニドと言います」

 「ど、どうも」

 「それじゃあ、もうそろそろ行きますか」

 俺とトロイトは村を出ようとする。すると、アヤカが俺に声をかけた。

 「わ、私も、旅に連れてって下さい!」

 何と彼女は旅に連れていくよう懇願したのだ。

 「な、アヤカ!」

 「お願いです!私、旅に行って、成長したいんです!」

 トロイトがアヤカを止める。

 「嬢ちゃん。これは魔王を倒すための旅だ。遊びの旅じゃないんだ」

 「その事は分かっています!」

 すると、アヤカは弓に矢をセットした。

 「では、今からあそこから数十メートル先にある木に付いた林檎を打ちます!」

 「なるほど、狙撃手ってわけか」

 アヤカは矢を引く。まるで慣れているかのような手付きで。

 そして、矢を放つ。

 「俺が見てくる」

 俺はターゲットの林檎の木に向かう。そして、俺は驚愕した。

 「まじかよ…」

 確かに、林檎に矢が刺さっていた。

 俺はその林檎を村に持ち帰る。

 「彼女の言ったことは口だけじゃない事が証明された」

 「本当に林檎を…嬢ちゃん。一体何者だ?」

 「私は狙撃手の一族、カイニド家の末裔なんです」

 「カイニド家…」

 「知ってるのか、トロイト?」

 「あぁ。かつての勇者御一行のメンバーの一人、狙撃の名手のアウバー・カイニドを始めとする一族で、狙撃の事ならカイニド家の者は全員一流なんだよ」

 「カイニド家ねぇ…」

 俺は、かつて組織にいたある女を思い出した。




 二階堂彩華にかいどうあやか。コードネームは『アリーチャ』。彼女の異名は『桃髪ピンクヘアー狙撃手スナイパー』。

 組織内でトップクラスの狙撃手であり、彼女の撃った弾は必ずターゲットを仕留めるのだ。

 奴はまだ生存しており、恐らく俺が死んでもなお組織で活躍するだろう。

 俺はそんなことを思いつつ、アヤカに話しかけた。

 「わかった。君の実力を買うよ」

 「ありがとうございます!お力になれるよう頑張ります!」

 「アヤカ…」

 すると、カイニドが俺の手を力強く掴む。

 「私の孫を…よろしく頼んだ!」

 「はい。必ず魔王を倒します」

 そして、俺達は狙撃手アヤカ・カイニドを仲間に加え、村を出た。

 村を出て数分後、アヤカが俺に話しかけた。

 「そういえば、モーガンさんはいくつ何ですか?」

 「俺か?俺は19だが」

 ちなみに、なぜ俺が年齢やフルネームの事を知っているのかというと転生した瞬間に、すべての記憶が俺に埋め込まれたからなのだ。

 「僕も19です」

 俺とトロイトがそう答えると、アヤカが返答をした。

 「私、18なので…敬語のほうが…」

 「いやいや、敬語じゃなくていい」

 「いいの?」

 「いいさ。俺達は魔王を倒すという目的を持った仲間だ!それなら、敬語じゃなくてもいいさ」

 「モーガン…」

 そんな会話をしていると、俺達の目の前に、何者かが現れた。

 「キサマラ、ココデ、コロス」

 そいつは甲冑を着ており、レイピアを装備していた。

 「モンスターか?」

 「ワレハシノカッチュウ。キサマラハシカバネトナレ」

 「シノカッチュウ…いわば死の甲冑ってことか。いくぞ!トロイト、アヤカ!」

 「はい!」

 「了解です!」

 俺は短剣とダガーナイフを構え、甲冑野郎を睨み付ける。

 「シネェ!」

 甲冑野郎がレイピアを突いてくる。

 「おっと!」

 それを紙一重で躱し、俺はエルボーを仕掛ける。

 「後頭部に喰らいな!」

 奴の後頭部に肘が当たる直前。奴はしゃがんだ。

 「何ッ!」

 「ファイアアタック!」

 だが、トロイトがしゃがんだ甲冑野郎に向けて攻撃を仕掛けた。

 炎が甲冑野郎を包み込む。

 「ソノホノオハキカヌ」

 甲冑野郎は何事もなく立ち上がり、むしろ炎のような闘気に包まれていた。

 「くっ、魔法が効かないなんて」

 「ワレニフレテミロ。ヤケドヲスルコトニナルゾ」

 奴の炎に包まれたレイピアがトロイトに襲いかかる。

 「ツラヌクガイイ!」

 「危ない!」

 しかし、アヤカがトロイトを押したことにより、レイピアの攻撃がトロイトを貫く事はなかった。奇跡的にも、アヤカにもダメージは無かった。

 「フン。ウンガイイヨウダ」

 「大丈夫ですか!」

 「すまない、アヤカ」

 「ダガ、ソノアクウンハイツマデツヅクカナ?」

 奴がレイピアをアヤカに向ける。

 「サァ!シスガイイ!」

 「やっと隙を見せましたか」

 アヤカはいつの間にか弓に矢をセットしていた。

 「一か八か。狙います!」

 アヤカは矢を発射。それは、甲冑野郎の顔の空いた穴に刺さった。

 「グハアッ!」

 甲冑野郎がもがき苦しみ始める。

 「ナ、ナゼダ…ナゼ、ワレノジャクテンガ…」

 「たまたまです」

 「ナニッ!」

 「私、昔から運だけはいいんですよ。だから、あなたの弱点も、もしかしたら頭なんじゃないかと思ったんです」

 「フッ、ワレガウンデシヌトハナ…」

 奴はそう言い残し、消えた。

 「じゃ、旅を続けましょう」

 「そうだな。じゃあ、行きますか」

 俺達は、その場を去った。

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