第25話 更なる陰謀
「雅文も可哀想やな。
斗真っちと羽黒の御当主様の板挟みや」
上場大手の部長職ながら、同学閥3人組では1番の下っ端である羽黒雅文が、人事部へ赴くために退室した会長室。
彼の気配が消えたのを確認した門松が呆れた顔で、斗真を見る。
「有り得る話じゃないですか。
だから、雅やんも新入社員の情報を確認に行ったわけですし……」
「数%の可能性を針小棒大に語って良く言うと思うで。
今の要扇に、ハニトラ仕込むようなコスパ悪いことをする価値ないわ。
少しばかり、揺さぶったればすむ話や」
要扇の価値は秘技を用いた呪物造りにある。
それを失った彼ら相手に機嫌を取るような手間は掛けないだろうと話す門松。
「ええ。
僕も今の要扇の状況からないなと思いました。
ですけど、雅やんから"僕の勘違い"を聞いたあの婆さんは少なくとも、僕に弁明するまでは動けません。
のらりくらりと対面の機会を潰して、その間に航平の意思を尊重できる足場でも作っておこうかと……」
それに同意しつも利用する辺りに性格の悪さが出ている。
当然、羽黒寄りの門松は、
「ほんまに過保護なやっちゃな!
昨日"何故か"『アシハラ』内で加々美家の令嬢のアバターが、航平君に接触したっちゅうログがあったと報告も受け取る。
自分の手下として鉄鼠を送るだけやなく、蛇の方にも情報を流して、羽黒のアドバンテージを潰し始めとるよな?」
と非難する。
日本の霊能力者業界で、羽黒に対抗できる家格を持つ一族に情報を流す背信行為を問い質す先輩相手でも、
「ただのサーバーエラーですよ」
と笑顔で惚ける斗真。
親にレールを敷かれた人生と言うのも窮屈だろうが、敢えてレールを壊して回る親と言うのも傍迷惑だろう。
「さてと言うわけで、僕は明日から数日ほど出張をしますんで。
会社の方はお願いしますね」
「……しゃあないな」
色々と……、本当に色々と文句を言いたい立場の門松だが、個人的には斗真の行動に賛同したいので、消極的な協力と言うポーズを取る。
「けど、リンカートグループの会議とアシハラの管理はいつも通りやってもらうで!」
「分かってますよ。
あ、八神真幸宛に出張命令書ください。
行き先と帰社日付空白で!」
「夫婦水入らずの旅行を出張費で落とすなや!」
行き先未定の出張など、旅行以外の何物でもないと怒る社長だが、
「じゃあ夫婦揃って有給申請しますんで処理してください。
当然、有給中はアシハラのメンテナンスなんかしませんが……」
即座に致命的な攻撃へ移る後輩上司に、顔色を変える。
リンカートグループ最大の商材を人質に取ったのだ。
「うぬぅぅ。
しゃあない!
会長の秘書代行として、随伴を命じる出張命令書を出したるわ!
普通、自分らの最大の商材を人質に取るかぁ?」
他の誰にも出来ないリンカート社の最重要業務を引き合いに出されてあえなく降参する。
「たまには良いじゃないですか。
これが僕の出張申請です」
「…………。
ホンマに質悪いやっちゃな!
……一応、グループ会社視察も用件に入れたるんか。
そういう所は抜け目ない……」
斗真がさらっと、書き記す書類を受け取った門松は、内容を確認して、目的がグループ会社視察になっている点で唸る。
これでは通常業務に、加えて追加の仕事をしていると言う大義名分が立ってしまう。
例え、実際が寄り道メインの観光旅行だと言っても、批難しにくい内容だった。
だが、
「ええ。
だって息子の幼馴染みを寝取った相手に興味があるじゃないですか」
「ただの出歯亀かい!
つくづくどうしょうもないやっちゃな!」
当の斗真は相変わらずの駄目人間であった。
グループの何処かにいるであろう要扇玲香の恋人を見に行く気だと宣言する斗真に、更に呆れた視線を向ける門松。
「けど、無理やと思うで?
RCTの研究員とかならともかく、短期で働く奴ならRCSやRCMの派遣とかやないんか?
どんだけいると思っとるんや」
「けど、実家が弁護士で経営学を学んでいたとか……。
あれ?」
どう考えても、警備会社の警備員やデバイス製造ラインの工員採用とは思えない人物背景を説明する斗真だが、説明していて違和感を覚える。
「経営学を学んでいて、将来要扇の家業経営に携わる人間が、うちのグループに来るわけないやろ!」
「……ですよねぇ」
自身の疑問符を代弁する門松の指摘に、同意する斗真は、
「そんなちぐはぐの経歴に騙されたとか間抜け過ぎでしょ」
「……良かったな。
その間抜けっぷりを世間に晒さんですんだで!
リンカート社の経営陣の情報を知っとる会長様」
と、要扇家を笑ってグループ本社社長に皮肉られる。
全く付き合いのない要扇の人間が、リンカートグループの経営に一般人が関われない事実を知らないのはしょうがないが、グループトップがそこに思い至らないのは間が抜けていると言われるのも当然。
「じゃあ、出張目的の変更を……」
と、門松から書類を取り返そうとした斗真の手が空を切る。
「丁度良いから、視察してこいや!」
門松が、書類を素早く懐にしまい込んで返さなかったのだ。
挙げ句、本人の建前を逆手に追加の仕事を命じられる斗真であった……。
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