第9話 真幸の秘密
「じゃあ、次は真幸さんについてだね~」
「へ?」
ずっと親しんできたゲームから、理不尽にアカBANされて悲しみにくれる息子に、父は容赦なく追い討ちに入る。
だが、航平はまさか母親にも秘密があるとは思っていなかっただけに間の抜けた声を上げるのが精一杯だった。
「いやさ、僕が話してきた内容って、結構荒唐無稽だよ?
普通の人が、それをあっさり受け入れられると思う?」
「……思わない」
斗真の相変わらずの冷静さに、嫌気が差しながらもしっかり答える航平。
「実は……。
いや、これは……。
どうする?」
「……そうね。
私からの方が良いかしら?」
航平が納得したと思った斗真だが、ここは当事者に任せるべきかと妻に話題を振る。
「航ちゃんは妖怪って分かる?」
「妖怪って、座敷わらしとかそういう空想上の生き物のこと?」
アシハラでも魔物カテゴリーで登場することが多い。
「ええ。
空想上の生き物ではないけどね。
その中でも、八咫烏って言う妖怪と人間の混血の子孫が"羽黒一族"」
航平の答えに頷きつつ、一部を訂正する真幸。
その答えに驚く航平は、更に羽黒と言う名に気付く。
「羽黒って、母さんの……。
つまり、母さんは八咫烏って妖怪……」
「どっちかって言うと、神獣って言うのが正しいよ?
日本の国を歴史の裏側から護ってきた守護者達だしね~。
そんで、天照大神の遣いとされる神使でもある」
妖怪と言う言い方を訂正する斗真。
愛する妻を妖怪呼ばわりされるのは気に食わなかったらしい。
「……神獣」
「そう。
つまり、国に働き掛ける力がある。
アシハラは僕の神力で運営しているから、安全は絶対に保証出来るよ?
けど、それを国が受け入れるかは別だと思わない?」
当たり前と言えばそれまでのこと。
異世界で神となったと言っても、この国では一般人の高校生。
そんな相手を信じて、大災害が起きては目も当てられない。
その仲介となったのが、羽黒一族である。
「そんな信用のない僕の後ろ盾になってくれたのが羽黒一族で、その縁で親しくなったのが真幸さんだ」
「羽黒家としては、自分達以上に強大な力を持つ斗真さんと縁が欲しかったのよ。
加えて、斗真さんのもたらす物の恩恵は、無視出来ないほど大きかった」
「恩恵?」
「それは僕から話そう。
1つは、これまで無差別無尽蔵に拐われていた神隠しが、コントロール下に入った。
もう1つは、国民の能力上昇による国益の増大」
「え?」
アシハラを遊ぶことで得られる利益については、設計者であり、運営者である斗真の方が向いている。
「経験値を得て強くなっていく自我に引っ張られて魂が育ち、魂に引っ張られて肉体が成長していく。
そんな人間が増えれば、国が育つって訳さ」
「……」
『アシハラで遊んだ直後は、勉強やスポーツの効率が上がると言う都市伝説があったはず』
と、ネットで見掛けた噂を思い出し、同時に、
『父さんと母さんは、仲の良い夫婦だと思っていたのに!』
とショックを受けた。
「斗真さん!
航ちゃん、勘違いしないでほしいけど、別に政略結婚とかそういうのはないからね?」
いまいち、情緒の壊れている斗真に代わって、航平の心情を察した真幸が、自分達の結婚を語る。
しかし、
「そうだよ。
羽黒以外にも、幾つかの家からお嫁さん候補がやって来たけど、真幸さん以外の女性は考えられなかったんだから!」
と、要らんことを言う斗真。
本当に空気を読む気がない男である。
しかし、航平君もまた思春期の男の子なので、
「お嫁さん候補?」
「うん、葛の葉狐を祖とする葛森、足柄鬼を祖とする北嶽から来てたかな?
他にも数人いたと思うけど……」
複数のお嫁さん候補と言う言葉に反応してしまう。
父親である斗真に、そんなモテ期があった。
そして、八神である自分にもチャンスが! と妄想する。
そこへ
「多分、航平の所にはもっとたくさん来るかもね?」
「マジでか!」
面白がって、更なる燃料を投入する父親。
それに鼻息が荒くなる息子。
「もう、そんなこと言って……。
航ちゃん、ふしだらな真似は許しませんからね」
当然、母として息子が不純異性交遊を認められない真幸は注意するが、
「もちろん、分かってるよ!」
と食い気味に答える航平にしっかり届いているかは不明である。
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