第10話 八神斗真の勧誘
「さて、航平は明日から暇だろ?
リンカートでバイトしてみないかい?」
「! やる!
絶対やる!」
思春期を暴走させつつある航平へ、更に爆弾を投げるような真似をする斗真。
リンカート社は、今ではフルダイブゲーム分野日本一の企業。
そんな会社にお邪魔出来る機会に、二つ返事の航平の頭からは、夏休みを台無しにしたのが斗真にだと言う事実は何処かに消えたようである。
まあ大好きなゲームに関わる会社と言うのは誰でも憧れるものである。
「けどバイトとは言え、そんな簡単に決めて良いの?」
「全然大丈夫。
特に中枢部門とかは、一般人の採用が出来ないだろう?
必然的に縁故採用になる」
コネ入社オンリーとなると、一般受けはしないが、事情からやむを得ない。
「……ああ。
オカルトに理解がある家ってことね?」
「そういうこと~。
お陰で常に人材不足なんだよね~」
「なるほど?
その割には父さんはいつも家にいるイメージだけど?」
航平より遅く家を出て、航平より早く帰宅している斗真の会社が、大忙しと言われても?
となるのは自然だが、
「いや~、僕は年中無休、24時間働いているよ?
アシハラのメインシステムの維持、常時監視に、異常事態への対応の3つを担っている。
まあ、平静は仮想人格に委ねているから、緊急時以外はやることない……。
そうでもないか?
結局、仮想人格のエネルギーとアシハラを維持するエネルギーの供給源になっているわけだし……」
『それって人間の仕事か?
いや、働いてるってのは間違いないけど……』
あれこれと自身の業務を話す斗真だが、航平の視点としては機械の仕事じゃないかと疑問を抱く業務内容である。
「話は戻すけど、航平が夏休みに助けてくれるのは本当に助かるよ~。
何せ、この時期はログイン人数が数倍に膨れ上がるから仕事も増えるし、忙しいタイミングを見計らって、ちょっかい掛けてくる連中も増えるからね~。
……丁度良かった」
「!
丁度良いタイミングって、これのことか!」
思い起こされるのは、航平の覚悟を問い質した際の台詞。
何故、このタイミングが丁度良かったか。
「そりゃそうでしょ。
プレイユーザーが1人減って、カスタマーが1人増えるんだよ?
僕にとって、実に丁度良いタイミングだよ?」
「……」
「……ねぇ、斗真さん。
やっぱりこの時期は仕掛けてくる勢力が増えるの?」
斗真の質の悪い暴露に挫ける航平を、余所に別のことを気にする真幸。
リンカートは、彼女に取っても元職場であり、"仕掛けられる危険"については、熟知しているのだ。
「うん。
真っ当な連中は良いんだけど、やっぱり質の悪いのは何処にでもいるよ。
特に最近多いのは受肉融合を考える連中」
「受肉?
私の働いていた時代とは違うみたいね?」
「……そうだな~。
真幸さんの在社していた時期は、アシハラが軌道に乗り始めた時期でしょ?
あの頃は、これまでの拐いたい放題から、交渉必須になった時期だし、殆んどは交渉の必要性を知らなかった勢力の勇み足だったけど、最近は悪意ありの狙って襲撃してくる連中が多い。
騙して連れていくわけにはいかないから、乱獲の心配はないけど……」
当時の感覚で話している夫婦だが、横で物騒な会話を聞かされる息子は堪らない。
『父さんと母さんの会話が凄く物騒なんだけど!
襲撃とか乱獲って何だよ?!』
心中でぼやく航平。
だが、話は思わぬ方向へ動き出す。
「……そうなのね。
航ちゃんだけじゃ、不安だし私も復帰するわ!」
「え?
そりゃ助かるけど……」
まさかの母まで職場に復帰すると宣言されたのだ。
斗真も、別段停める空気がない。
『いやいやいや、さすがにバイト先に両親揃い踏みは居心地が悪いから!
……頼む親父!』
必死に祈る航平だが、この神様は人のお願いを聞くタイプではない。
「じゃあ、
今の対外部門の部長は彼だから……」
「あら、あの子が?
大丈夫なの?」
『雅文?
聞いたことがある気がするな?』
両親の会話に出てきた人名に、聞き覚えを感じる航平。
その答えは、父からもたらされた。
「いや、先々代に当たる義姉が寿退社。続けて先代である妻が産休で部長職を降りたら、彼に役職が回ってくるのは必然だと思うけど……。
大丈夫じゃないね……」
『母さんの義理の弟?
……雅文叔父さんだ!
そっかリンカートは親族が多いんだから、ある意味自然なのか?』
幾らグループ会社会長の義弟でも、そんな決め方で人事をしたら、周囲が怒るんじゃないかと不安を覚える航平。
母も同じように不安そうだし、父も自信がなさそう。
しかし、
「あの子、羽黒家をあっさり受け入れたけど、一般人の家系よね?
特別な力にでも目覚めたの?」
「いいや?
だから、いつも四苦八苦してる……」
どうやら、両親がしているのは別の心配らしい。
しかし、
『何か、不穏な感じなんだけど……。
一般人にキツい職場とかどういうことよ?』
2人の会話を聞かされる息子は、自身の身の危険も心配することになったのだった。
さて、どうなることやら…………。
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