第7話 物語の始まりはコンビニのトイレから?
「全ての始まりは、コンビニのトイレからって言ったら笑うかな?」
「トイレ?」
食後のお茶を飲みながら、のんびりと話を始める斗真。
だが、航平にはわけが分からない。
何で父親の仕事を聞いたら、コンビニのトイレが出てくる?
「ああ。
これは僕が高校生くらいの頃の話だけどね?
学校の帰りに腹痛を覚えて、近くのコンビニでトイレを借りたんだ。
そんでトイレを出たら、ジャングルの中にいた」
「は?」
「そうなるよね? 普通……」
思わず聞き返す航平だが、遠い目をする父の様子から、冗談の類いじゃなさそうだと判断する。
「しばらく呆然としたけど、どう考えても夢じゃない。
だから直ぐにトイレに戻ろうとしたけど、そのトイレが何処にも見当たらなかった。
どう見てもファンタジー的な何かに巻き込まれたと、無理矢理、理解させられたよ……」
「……」
「持っていた物と言えば、着ていた学生服と鞄の中に、数札の教科書とノート。
後は水筒のお茶くらい。
まず、お茶の残りを確認しようと鞄を開けた。
飲み水の確保は最優先事項だからね……」
『相変わらず、変に冷静な親父だよな』
力無い笑い声を出す斗真に航平は、呆れ半分で感心する。
「でだ、鞄の中身は全部入れ替わっていた。
教科書の代わりに入っていたのは、開くとスキルが身に付くスキルブックと言う不思議なアイテムが4冊。
……ただし全部下級。
水筒はファンタジーに良くある魔法の小袋。
ただし、何でも入るけど重さはそのまま……。
そして、一番腹が立つのが、この世界の主神とやらの手紙!」
珍しくヒートアップする斗真。
相当に腹立たしかったらしい。
「そこにはね!
この世界の何処かにいる邪神を倒せ。
教科書は異世界の知識だから没収する、代わりにスキルブックをやるからありがたく思え。
この水筒は気に入った、大昔大鬼族が使っていた便利袋と交換する。
て、箇条書きで書いてあったんだよ!
無茶苦茶だろう?」
「……えっと」
「……鞄の中身が、空なら何もないまま何処ぞのジャングルに放置ってことさ」
いまいち実情が察せずに、コメントしづらい航平へ当時の状況を説明する斗真。
それを聞けば、
「確かに酷い」
と理解できる。
「とにかく、僕もわけが分からないまま、死にたくないからね。
スキルブックってのを開いてみた。
生き残るヒントがないかと……。
で、そのスキルブックってのは、その人間の素質をスキルと言う形で顕現させる本だったわけだけど、それもおかしいよね?
4冊あったけど、僕はその内の3冊しか使えなかった。
僕が獲得出来る下級スキルの素質は3つだったから、しょうがないのかと当時は思ったんだけど!
しばらくして、上級のスキルブックを獲得したら他にも覚醒するスキルが結構あったんだよ!
なら、最初からそっちも寄越しておけって思うだろ?」
「それは成長したからじゃ……」
父親の剣幕に、遠慮がちに反論する航平。
だが、
「いいや!
上級スキルのブックを使った時に、余っていた下級スキルブックも確認したが、使えるスキルが増えたりしていない。
スキルブックは該当するランクのスキルしか覚えられないってことさ」
「……」
証拠込みでやっつけ仕事の被害を受けたと言われては言い返せない。
「……そんであれこれ色々あって邪神は倒した」
「あれこれ?!」
「そして、なんやかんやあって主神も倒した」
「なんやかんや?!
重要な所、端折り過ぎじゃない?」
「いや、邪神や主神を倒すまでの経緯は僕の仕事と関係ないし、かれこれ10年くらい掛かったから、まともに話すと結構な時間が掛かるんだよ」
『確かに、異世界のことが父の仕事と関係あるとは思えない。
気にはなるけど、追々小出しで聞けば……。
あれ?』
「その口ぶりだと、異世界へ行った直後のことは仕事に関係あるのか?」
「お、良いところに目を付けたね!
凄い関係あるのよ~?
だけど、順番があるから待っててね?
まず、主神の討伐に巻き戻すとね?
いや、何故主神が邪神を倒したかったかが良いか?
難しい所だけど……。
ま、良いか」
内容の割りにひたすら軽い調子の斗真。
「そもそも邪神とか主神ってのは、主神とやらの言い分でな?
実情は主流民族の信仰する神と少数民族の信仰する神。
主流側の神は、少数民族の神を殺してその力を手にいれたかった。
だが、超越者である神をその世界の住人は殺せず、かと言って神同士の戦いはご法度らしい。
その抜け道が異世界人を挟むと言う間接的な方法」
「つまり、神を殺した異物を他の神が倒すのは問題ないって理屈ね?」
斗真以上に、その手の理屈に詳しい真幸がフォローを入れる。
「まあ、結果的に返り討ちだったけどね~。
けど、そのせいで僕はちょっとした神様くらいの力を手に入れちゃった」
まいったよね?
と、笑う斗真。
しかし航平としては、
『絶対笑い事じゃない』
と、心中で断言する。
「さて、そんな具合に力を得た僕は、さっさとこっちへ戻ってきたわけだけど、力を得たことで知ったのは、この地球の人間は結構な頻度で異世界へ拐われていると言う事実。
しかも、異世界の神々は僕の召喚主のような困ったちゃんばかり。
地球人を使い捨ての駒くらいにしか見てない状況だった……。
日本人に限定しても、年に400人ほど」
「そんな話聞いたことも……」
『1年で400人も行方不明になって、誰も騒がないわけが』
斗真の説明に異を唱えたい航平。
平和な日本で神隠しが騒がれないなんてと、考えても無理はないかもしれないが……。
「おやおや、日本だけでも年間失踪者数は大体8万人って言われているんだよ?
その中の400人。
多いと思うかい?」
「……」
そんな数字を出されては返答に困る航平だが、斗真は止まらない。
「まあ、知り合いが神隠しにあったと訴えられても、警察も困るよね?
じゃあ対応するべき存在は?」
「この世界の神?」
「そう思うよね?
まあ、いないんだけど……」
神に対抗するなら神だろと単純に答える航平に、苦い顔の斗真。
「いないから抗議もされない。
だから、神隠しし放題だったんだけどね。
当然、僕は最初は止めさせようとしたよ?
……けどね。
止められなかった。
どうやら、この世界は幾つもある他の世界に支えられているらしい。
下手に送る人間を止めて、他の世界が崩壊すると道連れにされる」
「……生け贄じゃねえか」
苦いモノを吐き出すような顔の航平。
まさしく生け贄、いや、神に捧げるのだからいっそ人身御供と言うべきか。
「そうだね。
だから、僕は拐われる側に干渉することにした」
そう言って怪しく笑う斗真。
その手段とは……。
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