第6話 斗真は息子に覚悟を問う

「父さん!

 父さんは何の仕事をしているんだ!」

「へ? ! あっち―!」

「斗真さん?!」


 リビングで配膳を手伝っていた斗真へ、2階から駆け足で降りてきた航平が怒鳴るように訊ねる。

 その勢いに呑まれて、出来立ての味噌汁が足に掛かった斗真は、盛大に悲鳴を挙げたのだった。




「おぉ、熱かった。

 いきなりどうしたんだい?

 これまで、僕の仕事に興味なんてなかっただろうに?」


 慌てて冷やしてくれた妻のお陰で、赤くなる程度の軽傷で済んだ斗真は向かいに座る航平に、いつもの締まらない顔を向ける。


「いや、それは……」


 勢いでやって来たのは良いが、斗真がニートみたいだから、幼馴染みに絶縁されたとは言い難い。

 どうしようかと悩む航平だが、


「その様子だと、玲香ちゃんに働いていないように見える父親がいるからって振られたな?

 どうだ? 図星だろ?」


 あっさりと事実を言い当てる。

 しかも、自分が貶されているのに平然とした軽さ。

 あまりの状況に、むしろ問い質した航平が呆然とする始末だ。

 だが、


「そ、そのとおりだけど、何でそこまで?」


 気を取り直して、あまりにも鋭すぎる父親に訊ねる。


「今朝、女難の相が出ていると言っただろ?

 そして、君に関わりがある女性と言えば、幼馴染みの玲香ちゃんくらいだろ?」

「うぐ!」


 対する斗真の返答は、消去法によるものだとあっさりと返して、むしろ航平の心を抉る。


「それは良いから!

 父さんの仕事は何なんだよ?!」

「……あ。

 うぅん……。

 真幸さん、どう思う?」


 気を取り直した航平に問い質されて、急に歯切れ悪く自身の愛妻に意見を求める。


「何やってるのやら……。

 ……けど、もうそろそろ頃合いじゃないかしら?

 玲香ちゃんと離れた今、嫌でもうちの実家を含めて、色々ちょっかいを出してくるわ」

「だ~よね!

 じゃあ!

 っとダメだ……」


 真幸の言葉に満面の笑みで答えようとして、顔を引き締める。

 普段とは掛け離れた真剣な表情になる斗真。


「大事なことを忘れていた。

 航平、今ならまだ引き返せる。

 だけど、聞いてしまったら後には引けない。

 君は大切なものを失う羽目になる。

 ……それでも聞くかい?」

「……」


 親の職業を聞くだけで、何でそんな重そうな選択を?!

 と沈黙する航平に、それ以上踏み込まなさそうな斗真。

 重苦しいリビングで、


 ーパン!!

 と音が響く。


「せ、せっかくの唐揚げが冷めちゃうわ!」


 空気を換えたかった真幸が手を叩いて告げたのだ。


「そうだね~。

 食べよう、食べよう!」


 好物を出されて、即座にいつものダメ親父に戻る斗真。

 しかし、


「丁度良い機会だし、これだけは言っておこう。

 いつか、君は僕の仕事を知らなくてはならない時が来るだろう。

 それを先延ばしにすればするほど、失うものは大きくなっていく。

 それだけは覚えておいて欲しい」


 真剣な表情で思わせ振りに語る。

 コロコロと変わる父親の言動に惑わされた航平は、


「何だよ!

 言えよ、失うものなんて、今時、はやらねんだよ!」


 と叫ぶ。

 その瞬間、斗真が浮かべるニマァ! とした笑顔に、


『は、嵌められた!

 このくそ親父、絶対言質を取るために!』


 と慌てるものの、もはや覆水盆に返らず。


「じゃあ! 夕飯終わったら発表しちゃいま~す!」

「いや、父さん……」

「何?

 こうしている間にも失うものが大きくなるんじゃないかって?

 大丈夫、大丈夫。

 唐揚げを食べる時間はあるからさ!」


 撤回を求めようとする航平だが、軽い調子で妨害する斗真。

 どう見てもわざと、つくづく底意地の悪い父親であった。

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