ホントの錬金術士 〜傷薬合成ぐらいしか出来ない下働き野郎と追放されましたが、そもそも錬金術って合成が目的じゃありませんよね?錬金術の由来を知る僕は新たな道を歩きます〜

ミコガミヒデカズ

第1章 錬金術師は使えない?

第1話 召喚された僕は早速王宮から弾き飛ばされた。


「ケ、錬金術師(ケミスト)だとおッ!!」


 声の主であるきらびやかな服を身につけ豪華な王冠をかぶった小太りの中年男が玉座から立ち上がる。王冠から下には音楽室に貼ってある作曲家の肖像画かトランプのK(キング)の絵でしか見た事がないようなクルリとした外巻きパーマヘアだ。その中年男が今、僕がいる場所より階段3段分ほど高い床から手に持った儀仗をこちらに突きつけるようにして怒りに満ちた形相だ。


 僕は水川優樹(みずかわゆうき)、都内のとある公立高校に通う三年生だ。ちなみに十八歳、選挙権も得たいわゆる新成人…って事になるのかな。呑気な事をなぜか説明口調で考えてしまったが状況はなかなかに深刻かも知れない。


 …なんせついさっきまでいた学校内での僕のリラックス場所…、選択科目である化学の授業で使う特別教室の後方にあるキャビネットと内壁の間に作られた畳四枚分ほどのスペースにいた。部室の無いマイナー文化部である化学部の僕らがコッソリ作った険しいスペース…、マッタリしていたのにいきなり見慣れない世界が広がった。なんて言うか、無理やり引きずり込まれたような感覚が体には残っている。例えるなら掃除機に吸い込まれた昆虫の気分だろうか?


 手には自動販売機で買ったペットボトルのジュース、椅子に座ってこれから飲もうかといったところでいきなり見慣れない空間に有無を言わせず呼び寄せられたようだ。せっかく誰にも邪魔されずに異世界転移モノのラノベをゆっくり読もうかと思ってたのに…。そう思っていると目の前で会話が始まった。


「はい、陛下。この者、錬金術師(ケミスト)にございます」


「錬金術師(ケミスト)でございます…、ではないわッ!バカ者め!多大な資源に労力、時間…それらを使って呼び寄せたのが下働きにしか使えぬ者とは聞いて呆れる。恥を知れ、この使えぬ魔術師どもめが!」


 僕と同じ高さの床、そこに立つ紫色のローブを着た男が王冠らしき物をかぶった男に伝えると陛下と呼ばれた男はさらに激しく憤った。


 …何の石かは分からないがそれを規則正しく敷き詰めた硬い床にギリシアの神殿にあるような石柱…、およそ日本ではお目にかからない雰囲気の建物の中で僕の都合など関係ないとばかりに会話が進んでいく。


(ああ、こりゃ異世界召喚ってヤツか。よく見れば床のコレ…、魔法陣だし)


 足元を見ると魔法陣が書かれている、そうなると…。


「ふん、怒りは収まらぬが…。そこの者、少し離れておるから顔がよく見えぬ。も少し近う寄れ、その石段の下まで来る事を許すぞ」


 睨みつけながら男が言った。だが、不満が顔にありありと出ている。少なくとも歓迎はされていない。


「光栄に思うが良い、直に顔を見てやるというのだ。このグラン・タイーショ王国、その王たるこのワシ…オヤマーノ・タイーショがな。偉大なるワシの名を知る機会を得て嬉しいであろう。まあ、本来ならまだまだ名は続くがどこの者とも知れぬ輩には覚えきれんだろうからな。ここまでで良かろう」


 儀仗をこちらに向けながら王らしき男…オヤマーノ・タイーショが言った。…お山の大将…だろうか?


「お断りだよ」


「な、なんじゃとおッ!余の命、王の命が聞けぬと言うかッ!!」


「うん。だって近くまで行ったらアンタの命令を聞いた事になるじゃないか。何の条件も無しに…さ」


「む、むぐぐぐッ!」


 怒りと驚きが混じった顔で王を名乗った男が言葉を詰まらせた。


「知ってんだよ、こっちは。この魔法陣、異世界からのゲートを開き対象者を召喚する。だが、術者の手に負えない化け物を召喚したらどうするのさ?だから魔法陣を描き、その中でだけ身動き出来るようにする」


「し、知っていたのか!?魔術など何も知らなそうな若造が…」


「ラノベ好きオタをナメんなよ。こちとらそういう話は大好物だ。もし、何も知らずにアンタの言葉…命令に従って魔法陣から出たら…つまり何も条件も付けずに召喚に応じた事になる。そしたらこっちはただの奴隷に成り下がる…そんなトコだろう」


「ぬうう、小癪な!衛兵ッ、こやつを打ち据えよ!力づくでも引きずり出せ!」


 その言葉に応じ衛兵が槍を振りかざして迫り来る。しかし…。


 ギインッ!!


 派手な金属音と共に衛兵の槍が弾かれた。


「この魔法陣ってさ、アンタらを守るだけじゃない。こっちの身も守るんだよね。つまり互いに手を出せない。少なくとも命令だけしてくるヤツに従うつもりは無いよ」


「ぬ、ぬうう、こうしている間にも少なくない魔力も資源も消費していっていると言うに…。こ、こんな薬草や茸を合成して傷薬を作るだけの輩に…」


 どうやらこの魔法陣を展開するだけでも向こうさんには手痛い出費であるらしい。


「御愁傷サマ…としか言えないね。さあ、分かったらさっさと…」


 元の世界に戻してくれ、そう言おうとした時だった。


「ええい、こやつを追放せい!」


 狙い通り…と思ったのだが…。


「へ、陛下、さりながら魔力が十分に集まっておらず…、完全な術式にはならないかと存じまする!」


「構わんッ!どこへなりとも消し飛ばせ!見るのも不愉快じゃ、躊躇うならば貴様を処刑するぞ!さっさとやれいッ!!」


 杖を持っていない方の手でこちらを指差し唾を飛ばしながら


「は、ははっ!!むうーん、送還(バニッシュメント)!!」


 ローブの男が慌てた様子で魔法を唱え手の平をこちらに突き出すと僕はたちまち吹き飛ばされる。


「うわあああーッ!!?」


 その衝撃に思わず声が洩れる。そして吹き飛ばされた先には壁があるはず…、叩きつけられると感じ僕は思わず身を硬くする。だが…。


「えっ!?」


 しかし僕は壁に叩きつけられる事なくすり抜ける、そして猛スピードのまま…感覚的には新幹線くらいのスピードで飛ばされていく。長いのか短いのか…具体的な時間は分からないが永遠にすら感じられた恐怖、それが終わりを迎えた時に僕は鬱蒼と茂る木立の中に立っていたのだった。








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