霊が見える人に会った
これは、Hさんから聞いた話です。
Hさんはごく普通の人であり、身近に霊感がある人なども居ませんでした。
Hさんが彼女とデートしている時、Hさんは初めて霊感がある人と出会ったと言います。
その霊感がある人物は、Hさんが彼女と入ったファミレスで突然Hさんに声を掛けて来た。
Hさんがドリンクバーで飲み物を選んでいる時、薄紫色のカーディガンを羽織ったお婆さんが突然Hさんに話しかけて来た。
「私は霊が見えるんだよ」
あまりに唐突な事に驚いたHさんは適当に聞き流したが、お婆さんは続けざまにHさんにこう言った。
「この店にもいるよ。ほら、あそこ。あの席と席の間にある柱の前に立ってる」
お婆さんが指差す柱には、確かに一か所ぼんやり濁って見える箇所があった。
飲み物をコップに注ぎ終わったHさんは、席に戻る途中にお婆さんが指差した柱の前を経由する事にした。
それは、ほんの興味本位だった。
しかし、意識してみれば柱の前には小学校低学年ぐらいの男の子がHさんを見上げるように立っていた。
本当に霊が居た事、そして自分にも見えた事に驚いたHさんは、その場から少し離れた席に座る彼女を大声で呼ぶと、何度もここに霊が居る事を伝えたが彼女は首を傾げるばかりだった。
彼女には見えない事が少し残念だったが、Hさんは席に戻ろうとした時、
グイっとHさんの服を後ろから誰かが掴んだ。
振り返ると、そこには柱の前に立っていた少年がHさんの服を掴んだままHさんの事を真っ黒の瞳で見上げていた。
Hさんはこの時、この少年に憑かれてしまったのだと気付いて、後悔した。
霊が見える事を霊に知られると、憑かれてしまう事をHさんは初めて知った。
そして、このからHさんの地獄が始まった。
霊が見えるようになってから、Hさんはこの世界の至る所に霊が居る事を知った。
その全てが見えてしまい、その全てに見えている事を知られないのは不可能だった。
Hさんに憑く霊が自然と増えていく。
サラリーマンであるHさんは仕事でも、多大な支障が出始めた。
沢山の霊に監視され、囁かれながら仕事に集中など出来るわけが無いからだ。
霊感などではなく、精神的な病気で無いかと周囲の人に言われたHさんは、精神科に行った。
しかし、精神科はただの妄想であり、一時的なものだという診断だった。
当然、Hさんの日常は霊に浸食され続けていく。
仕事も失い、困り果てたHさんは、心霊系のユーチューバーにメッセージを送った。
私は霊が見え始めてから困っています。という趣旨のものだった。
しかし、そのメッセージに返信が来ることは無かった。
何人かの心霊系に携わる人にメッセージを送ったが、まともに取り合ってくれる人は一人も居なかった。
時には、妄想や痛いファンだと罵られた事すらあった。
今でもHさんは霊が見え続けている生活を送っているが、最近は落ち着いて来たと話してくれた。
霊が見える人の近くに居ると、その人も霊が見えると知ったHさんは、自分の他に霊が見える人を少しずつ増やすという解決策を見つけたからだ。
そうやって霊を見られる人を増やしていけば、いつか誰かが自分の言っている事を信じてくれるだろう。
話を聞かせてくれたHさんの表情はとても明るいものだった。
皆さんは、霊が見えるようになっても、霊に知られないようにしてください。
ショートホラー集 花水 遥 @harukahanami
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