おしゃべりペロちゃん
これは、姪を預かった時のお話。
共働きしている妹夫婦が急な出張で家を空ける二日間、私は今年で6歳になる姪のナツキちゃんを預かる事になった。
妹夫婦とは離れて暮らしている為、ナツキちゃんと会うのも正月以来だった。
「お世話になります!」
迎えに来た私に向かってお辞儀するナツキちゃんに対して、子共とは一年でこんなにも成長するものかと私は感心した。
ナツキちゃんを助手席に乗せて自宅へ帰る途中、ナツキちゃんは手に持ったぬいぐるみを私に見せてきた。
「おじさん見て! この子ペロちゃんって言うの。話し掛けると喋るんだよ!」
最近買って貰った玩具なのか、興奮気味に話すナツキちゃんは、実際にペロちゃんが話すところを見せてくれた。
「こんにちは!」
『こんにちは!』
機械音だが、ナツキちゃんの声を真似して喋るペロちゃん。
「最近の玩具は凄いなー。お母さんに買って貰ったのかい?」
「うん! 毎日一緒にいるんだ!」
そう言って、ペロちゃんを抱きしめるナツキちゃん。
私の子供の頃とは比べるまでも無いが、最近の玩具はかなりハイテクな物が多いようだ。
私の家に到着してから、ナツキちゃんは憑りつかれたようにペロちゃんと会話して遊んでいた。
自分と話した事と同じ事しか言わないペロちゃんに対して、ずっと話し掛けているナツキちゃんは少し心配になったが、私のような親戚のおじさんと話すよりかはぬいぐるみ相手の方が気を使わないのかもしれない。
やがて夜になり、ナツキちゃんが眠った後、私は明後日の会議で使う為の資料を作成していた。
リビングにあるPCにテキストを打ち込んでいると、背後からペロちゃんの声が聞こえて来た。
『見えてる?』
咄嗟に振り向くが、背後のテーブル上にはペロちゃんが置かれていたが、誰も居なかった。
「ナツキちゃん、スイッチ切り忘れたのか?」
ペロちゃんの足裏にあるスイッチを見るが、電源は【OFF】になっていた。
確かに聞こえた気がしたが、空耳か、誤作動か何かだろう。
私はペロちゃんをテーブルの上に戻して、PCモニターを見た。
口の端を吊り上げてニタァと笑う女が私の背後に立っている。
黒い画面に反射して見えた女と目が合うと、
『やっと見てくれた』
嬉しそうな顔で女性は私に近づいて――。
きっと、ペロちゃんが居なければ私は彼女に気付かなくて済んだだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます