黄泉への誘い

 これは、Rさんが高校二年生の時に実際に体験した出来事。

 Rさんは祖母も母も離婚しており、母子家庭だった。

 祖母はF県に住んでおり、Rさんは当時T県に母と二人で暮らして居た。

 Rさんが住んでいたのは、木造平屋の一戸建てだった。

 建物自体は古く無かったが、寝相が悪いRさんの寝室の障子は幾つもの穴が空いていた。

 障子が破れた箇所からは庭が見えるようになっていた。

 ある日の晩、喉が渇いて目を覚ましたRさんは庭にぼんやりとした白い影がある事に気付いた。視界がはっきりとしてくるうちに、それが人影である事にすぐ気が付いた。

 庭は駐車場の裏にあり、車に遮られた庭へ侵入するのは難しい。きっと何かの見間違いだろうと感じたRさんは台所へジュースを飲みに行った。

 Rさん宅は母が喫煙者という事もあり、常に台所の換気扇が回っている状態なのだが、換気扇から何やら物音が聞こえてくる。

 耳を澄ますと、何度も「コンコン」と短いノック音が聞こえて来たRさんは怖くなって足早にベッドへと戻った。

 霊感の強いRさんは、金縛りには二種類あると言う。

 一つは、脳だけが起きていて体が動かない金縛りであり。その金縛りの後に見る夢はやがてRさんの身に現実に起こる予知夢だと言う。

 もう一つは、霊が来た時の金縛りである。

 この時、Rさんは後者の金縛りになってしまったと直感した。

 確かに、何かが居る。しかし何も見えず体も動かない。

 そんなじわりじわりと這い寄る恐怖の中で、なんとか身動きをしようとしてベッドから落ちてしまったRさんは、ベッドの下に居た女性と目が合ってしまい意識を失った。

 女性の顔がどのような顔だったのか、はっきりと覚えていないが、間違いなく人の顔であり女性だったとRさんは語る。

 そんな出来事があってから、一週間後にF県で高齢者向けの格安アパートで独り暮らしをしていたRさんの祖母が孤独死したという知らせを受ける。

 母の運転で急いでF県に向かうと、孤独死は事件扱いになるとの事で警察の事情聴取がRさんを待っていた。

 死亡推定時刻の14:00に学友と取っていた写真を見せた事により、Rさんへの容疑は晴れた。

 その後、亡くなった祖母の葬儀が執り行われたが、身内から嫌われていたそうで祖母の死を悲しんでいる身内はあまり居なかったとのこと。

親戚の集まりで、神社の神主をしている親戚にRさんはベッドの下の女性について話した。

 すると、神主の男性は祖母のお母さん、つまりRさんの曾祖母にあたる女性は神社の娘だったとか、Rさんの家系は皆少なからず霊感があり、神主の男性はRさんに「それは婆さんがRさんに、死ぬことを知らせに来たんだばい」と語った。

 無事に葬式も終わり、T県へ帰る前日。

 二つ年上の従兄が枝垂れ桜を見に行こうと、Rさんを誘った。

 時間も遅かったが折角だしドライブに行こうという提案だった。

 国内でも有名な観光名所である為、駐車場が多く用意されており、適当な場所に車を停めて枝垂桜を見に行った。

 しかし、時期的に殆どの桜が葉桜へと変わっていた。

 少しがっかりしたRさん達は帰ろうと車を出すが、出口の案内板に従って進むも一向に駐車場から出られない。

 確かに広い駐車場だが、これはおかしいと疑問を感じた二人だったが時刻は夜中。

 観光名所ではあるが街灯も少なく車のハイビームでも視界がハッキリしない闇夜の中、ただひたすらに出口を探して運転した。

 すると、突如従兄が急ブレーキを踏んだ事にRさんは驚いた。

 ここは駐車場であり、目の前には人や車はおろか、動物すら横切っていないのに何故急ブレーキを踏んだのか。

 従兄に問い詰めようとしたRさんは再びフロントガラスを見て言葉を失った。

 何故なら、ほんの数センチ前がダムだったからだ。

 危うく、車でダムに落ちる事に気付いて従兄は急ブレーキを踏んだ。

 気が付いた時には駐車場を出ており、ダム直前に居たRさん達は得体の知れない恐怖を感じながら慎重に夜道を帰ったという。

 最後にRさんは私に語ってくれた。

 Rさんの家系は昔から霊感があり、特に霊感の強い従兄はRさんにどんな霊が付いているのか、それが危ないのか危険が無い霊なのかを教えてくれると言う。

 しかし、Rさんが一番霊を身近に感じるのはRさんの近しい人物が亡くなった時だと言う。

 Rさんの近しい人物が無くなると、ダムに落ちかけた時のようにRさんの身に大きな危険がほぼ必ずと言って良いほど起こるとの事。

 それは、霊がRさんも一緒に黄泉へ行こうと誘っているのだと、Rさんは語った。


 これは余談だが、神道には五十日祭というものがある。

それは仏教の四十九日にあたる神式の法事なのだが、Rさんのお婆さんが亡くなってから五十日間、Rさんの通学路にある三か所。

 同じ場所に同じ人がずっと立っていたと言う。

 その人物が一体誰なのか、Rさんも知らないと言う。

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