ガラス越しの景色

海へ向かう途中、彼女はガラス越しの景色を見続けていた。


「窓、開けてもいい?」

「うん。」


彼女は開けた窓から身を乗り出す。

風になびかれた彼女の髪がバタバタと音を鳴らした。

眩しそうに外を見つめる彼女の目は宝石のように輝いていた。


「都会から少し離れたところにこんな景色が広がってるなんて…

すごい…。」


「あんまり遠くに出かけたこととかないの…?」

「ない。

昔から熱とかでやすかったし、親が凄く……過保護だったから。

極力、外の世界に触れさせたくなかったんだと思う。」


「子供を自分の管理下に置いておきたかったんだね。」

「きっとそう。

それに比べて今はかなりマシかな」


彼女は眠そうにあくびをした。


「海につくまでにもう少しかかるから寝てていいよ。」

「ありがとう。

あっ、私のこと気にしないで煙草…吸っていいですからね。」


「なんで…。なんで僕が喫煙者だってわかったの…?

君の前で吸ったことないのに」

「匂い…かな。いつものジャケットは煙草の匂いがあまりしなかったけど、今日のジャケットはしっかり匂ってる。」

「ごめん…煙草の匂い嫌いだった?」

「ううん、むしろ好きだから気にしないで。

じゃ、おやすみなさい」


「おやすみ」


僕は彼女が眠ったことを確認し煙草をふかす。


幼いころは煙草も酒も吸わない、飲まない、そう決めていたものだが、ストレスには勝てない。


ろくに依存できるものがなかった僕にとっては、これが救いのようなものだった。

姉が死んでからはいい子でいることが一番だったが、まぁ煙草くらいは…と自分に言い聞かせている。


「んん…

あぁ…海……。」


「おはよう、そろそろつくよ。」

「…。もっとちゃんと景色を見とけばよかったな。

海なんて次はいつ来れるかわかんないし。」


「言ってくれたらどこへでも連れてってあげれるよ。

まぁ、ペーパードライバーの僕に言われてもって感じかもしれないけど…」

「ふふっ、全然運転うまいですよ?もっと自信もっていいのに。

でも…ありがとう。今までガラス越しでの景色ばかり見ていたから、こうやって今見えている景色に手を伸ばせること…

すごくうれしいんだ。」



さっきまで曇っていたはずの空はすっかり晴れ、風が心地よく吹いていた。

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映画館の匂い うるた @uruta

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