生き残り

「さっきの映画すごく良かったな…。今思い出しても泣けてくる…。」

彼女は手で目元を擦り、ズズっと鼻をすする。

「あれそんなに泣ける映画だった?思いっきりゾンビモノだったけど…。」

「主人公とヒロインの再開のシーンとかものすごく泣けたし、ゾンビの気持ちに感情移入しちゃって…」


彼女の感情がしっかりと顔に出るのは、こうやって映画で感動した時か、すごく面白いものにあたった時くらいである。

だからこそ、この笑っている顔や泣いている顔はものすごくレアでかわいい。


「映画館の中は冷房ついてたからまだマシだったけど、フードコートはやっぱ人も多いし暑いね。」

「だね。これだから夏はキライ。」

「ハハ。

冬も寒いから好きじゃないって言ってなかったっけ?」

「好きじゃないとキライは別」

暑いならそのアームウォーマー外せばいいのに。と、言いたいところだが、きっと何か訳があるのだろう。

女の子特有の「日焼けしたくないから」なのか、はたまた腕に見られたくないものでもあるのか…。


僕にはそのことについて触れられる自信がなかった。

また僕の余計な一言で誰かを傷つけてしまう気がしていたから。






***






僕には7つ歳の離れた姉がいた。

美人で頭もよく、おまけに性格もよかった。


僕と姉は父親が違っていたけれど、仲は良かった方だった。

姉のお父さんは10年程前に事故で亡くなってしまい、その後再婚した相手との間にできた子供が僕だ。

姉と父の仲も良好で、ごくごく普通の家族として過ごせていた。



そんなある日、姉が性被害にあった。


相手は同じ学校の生徒。


この時点で姉の精神は限界に近い状態だった。

学校にも行けず、父に少し触られただけで叫び声をあげるほどだった。

そんな姉にさらなる悲劇が襲った。


セカンドレイプだ。


取り調べであたかも姉が悪いかのような言い方をされ、世間からは好奇の目で見られた。

姉は精神を病み、自傷行為や自殺未遂を繰り返すようになっていった。

当時幼かった僕でも事の重大さが分かるほどだった。


それなのに…それなのに僕は、姉に向けて心無い言葉を放ってしまった。

「そんなに体に傷があると、せっかくの綺麗なお姉ちゃんがもったいないよ。」

と。

当時の僕としては、姉に自傷行為をやめてほしい一心だったのだろう。

しかしそんな僕の思いとは裏腹に、姉はその2週間後にこの世を去ってしまった。

僕は酷く後悔した。どうしてあんなことを言ってしまったのか。姉はただ自分の辛さを理解してほしかっただけではないのか。

僕のせいだ。全部全部全部。僕があんなことを言ってしまったから、お姉ちゃんは死んだんだ。


父と母は僕のことを慰めてくれていたけれど、実際はきっと憎くてたまらなかっただろう。

僕が生きててごめん。その気持ちでいっぱいだった。

だからこそ、姉よりも頭がよく、人一倍優しい人になろうと決めた。

生きてたのが僕で良かった。そう思えるように生きよう。と、心に決めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る