タイミング

「砂が足にまとわりつくのなんか気持ち悪くない?」

「そう?私は好きですけど、

あ、でも砂が少しついた状態で靴下履かなきゃならないのは嫌かも」

私たちは砂を足でかき分けながら歩く。

少し陽が傾いてきた。

私は気分が良くなって口ずさんだ。

「女の子はだれでも〜♪まほーつかいに向いてる♪」

「言葉を介さずとも…肌で感じてるから?」

「おお!せーかい、!」

こうやって話しているとなんだか楽しくなってきて、私は砂浜を走り回った。


石のごつごつした感じとか、普段感じられない感覚が自分の肌で感じられていることが凄く嬉しかった。


「あっ…」

私の首から何かが落ちた。

その瞬間、心なしか体が軽くなったように感じた。

「これ…ペンダント?」

「うん…」

「綺麗な模様だね。せっかく綺麗なんだから、服の上にしとけばいいのに。

あっ…ごめん、余計なお世話だったよね。」

彼はきっと私の顔色を見て謝ったのだと思う。

でも違う。私がこんな顔色になっているのは。

このペンダントが私にとっての呪縛のようなものだから。怖いから。このペンダントが。

外したいけれど外せばきっと自分の身に何か起こる。そう私の直感が言っている。 


「少し休もうか。」

「うん、ありがとう。」

「ちょっと待っててね。飲み物買ってくる。」

彼は本当に気がきく人だ。

彼が背中を押してくれるならどんな無謀なことでも挑める気がする。

もっと彼と一緒にいたい。そう思えば思うほど、彼が遠くにいる気がして、私が近づけば近づくほど、彼は離れるような気がして。


「水かお茶、どっちがいい?」

「水」

「だと思った。」


「なんかさ、落としたものを拾おうにも自分が拾うタイミングが少しでも遅いと臆病さが増しちゃって拾えなくならない?これ僕だけ?」

「ああそれ分かるかも。何事もタイミングですよね。なんかタイミング間違えると気まずくなるっていうか。」

「そうそれ。」

彼はペットボトルを回す癖があるのか、話しながらずっとペットボトルを回し続けている。


「あのさ…」

〜♪〜♪

「あ、ごめん電話。

もしも…」

「ちょっと雪乃ちゃん⁉︎⁉︎そろそろ戻ってこないと‼︎また怒られちゃうよ‼︎」

「わかったって。

ごめん、あこ。

うん…うん…わかった。じゃあね。」


「今の友達?」

「うん、ちょっと心配性な子でさ」

「てか、名前‼︎雪乃って言うの⁉︎」

「あ。そいえばお互い名前知らなかったね。」

「そうだよ‼︎あ僕、明。

一ノ瀬明‼︎」

「私、森山雪乃」

「前と一緒で君呼びでいいかな?あ、僕のことはなんとでも呼んでくれって感じだから。」

「うん。私、君呼びかなり気に入ってるよ。

私は…あきさんって呼ぼうかな。」

「僕は、雪乃…さん?でいいかな…?」

「うん。」







「どこまで送っていけばいい?」

「ここ、この病院。」

「病院?どこか悪いの?」

彼は心配そうに私の顔を見る。

「いや、そういうわけじゃないよ。ただ、まぁ色々。

タイミング…きたら話すから。」


「…これ、僕の電話番号。自分タイミングでいいから、何か話したくなったらでいいから、その時に電話して。

待ってるから」

「ありがとう。待っててね。」


「じゃあ。」


「うん…。じゃあ。」

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