あの夏の映画
夏の映画館は、少し汗の混じったような匂いと汗に負けんとまでの香水の匂いとが混ざった感じの匂いがする。
私が少し苦手な匂い。
「今日、暑いですね。」
彼はシャツのボタンを2つあけた。
「そうですね。明日はもっと暑いそうですよ、」
私はさっき買ったアイスを食べた。
「今日の映画、題名にハロウィンついてましたね。今、夏なのに。」
「そうですね。でもハロウィン要素なかったくないですか?あの映画。」
「ですねー」
彼は笑う。
彼と初めて会ったのは3ヶ月ほど前。多分、いや、きっともっと前から会っていたんだと思う。ただお互いの存在を認識したのはあの日だった。
その日見た映画は凄くつまらなくて、映画の途中、トイレに2回行った。その時にたまたま同じタイミングで席を立ったのが彼だった。
ラストシーンの少し前はいつも少しつまらない。
だから、そのタイミングでトイレに行くのがちょうど良い。
私と彼が行く映画館はフードコートがある。
私はその日もいつものようにそのフードコートでラーメンを啜っていた。
「隣いいですか?」
そう言ってきたのが彼だった。
「あ、さっきのトイレの…」
「ああそうです。」
彼は笑って、
「あの映画僕的にはイマイチでしたけど、どうでした?」
「あんま面白くなかったですね。ストーリーもどこかで見たような感じでしたし、なんか…
sevenみたいな…」
「sevenみたいな。」
「あ、ハモリましたね」
彼はふふっと笑った。
「良ければ今度、この映画一緒にみませんか?」
彼からは少し緊張しているのか汗が垂れている。
2つあいたボタンから見える肌は男性とは思えないほど白く透き通っている。
「それ私もちょうど見たかったんです。」
「ああ、良かった。」
彼は歯を見せて笑った。
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